高賃金求め海外へ出稼ぎ、「ワーホリ」人気が示す若手人材の日本離れ
(ブルームバーグ): 任期制自衛官として3年の勤務を終えた吉原智喜さん(25)は、海外で観光や勉強をしながら就労できるワーキングホリデー制度を利用して昨年オーストラリアに渡った。現在働いている食肉加工工場での手取り額は日本にいた時の3倍だ。
シドニーから南西に約200キロ、ウール産業が盛んなゴールバーンに住む吉原さんは、週5日、朝5時から1日9時間半働く。月の手取りは約50万円で、30万円貯金することもある。「日本食を食べたいとか友達や家族に会いたいとは思うが、 給料面では全然こっちが良い」と話す。
高水準の賃金に円安も相まって「海外出稼ぎ」の魅力が増し、若手人材の日本離れが進んでいる。オーストラリアの日本人向けワーキングホリデービザの発給件数は、昨年6月までの1年間で1万4398人と、統計をさかのぼれる2001年以降で最多となった。
英国やカナダでも新型コロナ感染拡大前の水準を回復。英国は、同制度を利用できる年間の人数を24年度から4倍の6000人に拡大した。日本と比べて高い物価水準を考慮してもなお魅力的な賃金が若者を引きつけている。こうした制度を活用して若者が海外に出る動きが強まれば、日本の人手不足に拍車がかかる可能性がある。
明治安田総合研究所の吉川裕也エコノミストは、「海外と比べ日本の賃金はだいぶ物足りない」と指摘する。今春闘では平均賃上げ率が5%超と33年ぶりの高水準となっているものの、最終回答でのベースアアップは3.5%程度とみており、「外国にキャッチアップするのはまだまだ遠い道」との見方を示した。成長機会を求めて海外に挑戦する若者が戻ってこなければ、日本にとって好ましくないとも語った。
バブル崩壊後の「失われた30年」で拡大した海外との賃金格差は大きい。経済協力機構(OECD)のデータによれば、日本の名目賃金の伸びが1992年から30年間ほぼ横ばいであるのに対し、豪州は2.6倍、カナダは2.2倍だ。国税庁によると2022年の日本の平均年収は458万円で、吉原さんの給料はこれを優に上回る。