高賃金求め海外へ出稼ぎ、「ワーホリ」人気が示す若手人材の日本離れ
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、賃金格差を背景に海外で仕事を見つけたい人が増えているとし、「この流れが続けば日本での若者の雇用難に拍車がかかってしまう可能性がある」と述べた。
日本商工会議所が全国の中小企業約6000社を対象に昨年実施した調査では、7割近くが人手不足に直面していると回答。帝国データバンクによれば、人手不足を理由とする倒産件数が23年度に313件と過去最多を更新した。
ワーキングホリデーは、二国・地域間で一定期間の休暇を過ごす活動とその間の滞在費を補うための就労を相互に認める制度で、日本の提携先は現在29カ国・地域に上る。対象は18-30歳で、滞在期間は国によって異なる。オーストラリアでは最長3年となっており、地理的な近さや治安の良さ、ビザの取得しやすさもあり人気を集めている。
日本ワーキング・ホリデー協会の広報担当、真田浩太郎氏は、オーストラリアはワーキングホリデー利用者を労働力として頼ってきた背景から、ビザの取得は相対的に容易だと説明。コロナの収束で入国制限が解除された後は雇用条件の緩和も進み、渡航しやすい環境だという。さらに、円が対豪ドルで下落しているため、円換算で収入が増えることも出稼ぎ目的の渡航者が増えている要因と説明した。
足元の円は豪ドルに対して100円前後と、約10年ぶりの安値水準で推移。20年に付けた64円台からは50%余り円安が進んでいる。
オーストラリア人の環境問題への意識の高さに引かれたという高橋莉々さん(22)は、今春大学を卒業した後、オーストラリアに渡った。ワーキングホリデー制度を利用して農園で働く予定で、作物の収集作業で日給2万-3万円を見込む。同性パートナーとの結婚も考えており、同制度で2年間働いた後、同性婚を認めている同国で永住権を取って移り住みたいという気持ちもある。
「生きていくには十分かもしれないが、自分の好きな趣味や友達と遊ぶことに使えないのはさみしい」。高橋さんは、各国に比べて低い日本の平均的な新卒給与が渡豪を選択した理由の一つと話す。少ない手取りでは「仕事が全ての生活になってしまうのでは」との不安もあった。