【解説】マックのリリースはヒントになるか? カスハラモードに陥らない気持ちの切り替え
今年3月。マクドナルドでシステム障害が発生し、世界各国のマクドナルドの店舗は長時間にわたりキャッシュレス決済ができない状況に陥った。 対応は店舗ごとに異なり、店を閉めたところもあれば、手書きで注文を受け、現金だけで決済したところもあった。 こうしたシステムトラブルの際に企業が出すリリースを想像して欲しい。たいていは、「多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。一刻も早い復旧に向け、全力で取り組んでまいります」など、客に対して詫びるものだ。 では、マクドナルドはどのようなリリースを出したのか? アメリカ・マクドナルドのCIO(最高情報責任者)が出したリリース「世界的なシステムの停止について 最新情報」を見てみよう。 まず冒頭に「このメッセージは各国のマクドナルドの従業員、フランチャイズオーナーらに送られたものです」とある。HP上で公開されているが、客に向けてではない。 トラブルの経緯と現状についての説明に続き、従業員らにこのように語りかけている。 「システムが停止してしまったということが、いかにイライラすることか承知しています。このせいで、あなたやあなたの店舗のチーム、そしてお客様に大きな影響を与えていることもよく理解しています」「我々は一刻も早く解決すべく取り組んでいるところです」「辛抱強く待ってくれてありがとう。そして、迷惑をかけてしまっていることを心からお詫びします」。 システム障害時に、米国マクドナルドのHPにアップされたリリース。想定と違わなかっただろうか? マックのシステム障害はいつ回復するのか?知りたくて、HPを開く。そしてこのリリースを見たら? 「そうだよな。店舗でいつも通りに注文を受けて、商品を出すことができないでいる店員さんたちも、途方に暮れているんだな」と、店員の立場に立つことがより容易になったのではないだろうか? 振り返ってみるとこの数年、頻繁にシステムトラブルは起きている。そのせいで、予定通りいかなくなった時、目の前の店員や電話の向こうの担当者の非を責めてしまったりしていなかっただろうか。 客に対応する担当者一人ひとりは、実際に起きているトラブルに直接の責任がないことが多い。それでも、「自分たちの非」として詫び、対応を続ける。 しかし、客の側に立ったとき、自分が被っている損失に苛立ち、「トラブルを起こした側」の”一員”である店員などの心情に思いをはせることができなくなり、「もっと何か対応のしようがあるだろう」と責め、「こちらの時間や手間を返せ」と不当な見返りを求めてしまえば、それはカスハラとなる。 そうした中で、「従業員もさぞ大変だろう」と気づかせるマクドナルドのリリース。システム障害が起きて大変な思いをさせてしまっていますね、と経営側が従業員をねぎらう。 それを見た客は、「そうだよね、従業員の人たちも大変だよね」と気づき、それまで不満に思っていた気持ちを落ち着かせたかもしれない。 オーストラリアのマクドナルドのフェイスブック投稿も同様だった。こちらは宛先が客ではあるものの、システム障害の経緯の説明のあとに「お客さまと我が働き者の店員たちに、深く感謝します!」と記されていた。
「お客様は神様です」「従業員は我慢して当たり前」「会社がトラブルを起こしたら社員全員が責められて然るべき」というこれまでの認識や対応のあり方が少しずつ変わってきている。 「丁寧な接客」を強みとしてきた日本だが、これに対して、客としての日本人のハラスメントが止められなければ、国としての魅力も薄れてしまうのではないだろうか。