「自壊の恐喝」「利のある敗北」―格差ある米朝二国の首脳会談と極東の力学
初の米朝首脳会談が12日に迫っています。北朝鮮と米国という力関係では一見不釣り合いな両国の首脳会談は何を意味するのか。 建築家で文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋さんが、米国と日本を取り巻く朝鮮半島・中国の文化地政学という視点から考察します。
米国もまた極東
6月12日が近づいている。 先の南北会談では劇的な融和ムードを演出した金正恩委員長であるが、トランプ大統領との会談は紆余曲折、簡単ではない。 とはいえ、少し前までは居丈高に核兵器とミサイルの実験を繰り返していたのであるから、この状況が大きな転期であることはまちがいなく、その帰趨は日本にとってもさまざまな知見を提供してくれるようだ。われわれはそこにどのような力学を読み取るべきか。極東(=far east・東アジアの地政学的に重要な部分を呼ぶ)の安全における多変数方程式はかなり難解である。 この地域では昔から(特に江戸末期から)、中国、南北朝鮮、ロシア、日本、また台湾、香港などを構成主体とする複雑な力の角逐が繰り広げられてきた。しかし実はそこに隠れた主体としてのアメリカがあった。つまり広大な太平洋を一挙に(文明力によって)越えうるものと仮定すれば「米国もまた極東」なのだ。黒船以来、この地域におけるアメリカの存在は無視できない、というよりむしろ最強の主体としてふるまっている。 そしてこの極東には、他の地域には見られない文化的多様性がある。 政治体制としては共産党独裁と自由民主主義、経済体制としては社会主義と資本主義、人種としては日、漢、韓など黄色人種に加えて、スラブ、アングロサクソンなど、宗教としてはカトリックとプロテスタントとロシア正教と、仏教、儒教、神道など、社会状態としては先進国と新興国、といった具合だ。冷戦構造時代は単純に西側と東側で線引きされたが、ベルリンの壁崩壊以来「極東の海壁」はむしろ複雑化し「多元的文化戦争」の様相を呈している。