恐竜の立ち方は『ジュラシック・パーク』を機に劇的に変わった!?その理由とは
1984年、10分間の短編映画で初の前傾姿勢に
1970年。一つの論文が学会で話題となる。古生物学者バーニー・ニューマンが「ティラノ・サウルスは前傾だった」との論文を発表したのだ。この論文は恐竜学の新たな潮流となった。ところが70年代のハリウッドでは、既に恐竜映画の人気は陰っており、残念ながら新説を映像化するには至らなかった。理由は、この新説発表と恐竜ブームの終焉が同じ時期に重なったことによる。 ティラノ・サウルスがようやく新しいイメージに転換したのは1984年のこと。前年にオスカーを受賞し、ジョージ・ルーカスのILMから独立した映画監督・人形アニメーターのフィル・ティペットが10分間の短編映画『プレヒストリック・ビースト』を制作したのだ。夜の森での恐竜同士の死闘を描くこの作品に登場するティラノ・サウルスが、世界初の前傾姿勢恐竜だった。現代の科学理論を反映したフィルムは、翌年のCBSのアニメーションドキュメンタリー『恐竜!』にも使われ、プライムタイム・エミー賞の特殊視覚効果賞を受賞した。 ティペットも、オブライエンやハリーハウゼンの系譜にある恐竜マニア。『プレヒストリック・ビースト(Prehistoric Beast)』のタイトルは『キング・コング』のセリフから引用されたものである。 なお、ティペットは数年後、『プレヒストリック・ビースト』の知識と経験を活かし、新作映画『ジュラシック・パーク』に人形アニメーターとして参加する。しかし、ちょっとしたトラブルが発生する。ティペットが担当するシーンが、急激に技術が発展していたCGに置き換わることが決まって解雇されたのである。スピルバーグ監督にクビを言い渡されたとき「俺は絶滅だ!」と漏らしたティペットの呟きは、劇中の台詞にも使われることになった。ところが、くだんのCGスタッフは、恐竜の細かい動作に個性とリアリティを与えることができず、ティペットが動きを監修する「恐竜スーパーバイザー」として復帰することになる。こうしてリアリティで世界中を驚かせた『ジュラシック・パーク』は完成し、生きているかのようなリアルな恐竜の姿を実現した功績により、彼は1994年度のアカデミー賞視覚効果賞を受賞した。世界初の前傾姿勢のティラノを映像化した人物が、後にメジャー化に寄与した人物であったことは、いずれティラノが姿を変える運命に導かれていたのだろうと想像できるだろう。
文:幕田けいた