「社会の理不尽を容認できず闘ってしまう」 38歳女性の悩み相談に、スピーチライターが贈った言葉
ベストよりベターを目指す
私は、長く広告会社で働いてきました。たくさんの企画書や絵コンテを描き、300近い得意先に提案してきました。 そこで学んだことのひとつとして「ベストよりもベターを目指せ」というものがあります。どういうことでしょう。 仕事は、縦糸に論理、横糸に感情で布を織るようなものです。 縦のロジックだけで進めば、実に簡単に事が運ぶ。しかし、感情という理不尽な横軸が入るおかげで、ロジックは曲げられ、色を変えられてしまう。 例えば、今回の企画が「WEBサイトを訪問してくれたにもかかわらず、離脱した人を再訪問させるリターゲティング広告にすべき」という提案だったとします。 しかし、上司が「先方はWEB広告に明るくないので、会場を借りたイベントの方が採用されやすい」と言いだした。あなたは、「それではターゲットに刺さらない! 認知度を上げることは不可能」と猛烈に反論する。 しかし、WEBに詳しくない得意先に、どんなにリターゲティング広告について話しても響かない。むしろ、一生懸命やっているあなたを「わかっていない」「生意気」と受け止めてしまうかもしれません。 正しいのは、間違いなくあなたです。 しかし、上司や得意先の知識、経験、感情という横糸を入れないと布(=企画)は成立しないのです。 こうした対立を何度経験してきたことか。 対立の結果、自ら降りたり、得意先から出入り禁止になったこともあります。ベストを目指しすぎて、ゼロになった。これは双方にとって遺恨を残し、自らのキャリアを大きく傷つける結果になりました。結局は「ベスト」に程遠いものが出来上がって、後悔する毎日でした。 しかし、今になって思えば、妥協の産物であっても、これは貴重な経験でした。 ここから学んだことが、「ベストよりベターを目指す」こと。自分の正義だけのベストをつくるのではなく、人の思いや経験を織りなして、これ以上ないベターを目指す。それを続けるうちに、「あなたの言うことは正しい」「君なら任せられる」と信頼を得ることができる。 こうなって初めてあなたの「ベスト」を尽くせるのではないでしょうか。