アリババの「淘宝海外」、2024年のGMVは200億ドルを突破 海外に暮らす1億人の中国系に照準
アリババの主力ECプラットフォーム「淘宝網(タオバオ)」が展開する越境EC「淘宝海外(Taobao world)」が、2024年の流通取引総額(GMV)を200億ドル(約3兆円)の大台に乗せ、前年比で2桁成長を果たしたという。 このGMV規模は格安越境EC「Temu(ティームー)」の2023年の年間GMVを上回り、TikTokのEC事業「TikTok Shop」の2023年の実績に匹敵するが、その注目度はこれら越境ECサイトに比べるとかなり控えめだ。 淘宝海外はすでに10年以上運営されており、越境ECのベテラン「SHEIN(シーイン)」登場から数年後の2013年に「淘海外」としてリリースされた。当初は中国国内向けECとしての淘宝網を知る海外在住の中国系消費者から自然と生じたニーズに応じる程度で、プラットフォーム側も運営にそれほど力を入れてなかった。2016年、アリババの消費者向け戦略アップグレードに伴い、B2CのECモール「天猫(Tmall)」に参加していたブランドからの出品を増やし、香港、台湾、シンガポール、マレーシア、オーストラリアに現地向け運営チームを設け、公式の物流サービスを提供するようになった。 淘宝海外は現在、大掛かりなイベントや著名人のスポンサーになるといった手段ではなく、サービスのアップグレードを通じて業績を伸ばすことに重点を置いている。 2024年7月、淘宝は国際デジタルコマースグループ、アリババの物流企業「菜鳥網絡(Cainiao Network)」と共同で、2023年に開始した安心委託管理サービスをアップグレードした「衣料品送料無料」プログラムを始動させた。シンガポール、マレーシア、韓国、香港、マカオ、台湾の利用者は、利用額が一定の基準を超えると送料が無料になる。基準額は各国・地域の消費力に応じて99元~199元(約2000円~4000円)の範囲で設定された。 淘宝海外の客単価は越境ECの中でも高めで、すぐに基準額を超えるため、一部の消費者には魅力的に映ったようだ。また配送についても、これまで利用者が国内・海外の各物流区間で配送会社を自ら依頼していたが、すべてを菜鳥網絡に任せるという選択肢が増えた。これを選ぶと、これまで注文から受け取りまで15~30日かかっていたものが、5~7日へと大幅に短縮される。 このプログラムが発表され、淘宝網のアパレル事業は2024年8月から10月に海外でのGMVが前年同期比で40%近く増加したという。国内のアパレル出品事業者はレディースファッションの返品率の高さに悩まされていたが、このプログラムへの参加で売り上げが大きく増加した。ある大手経営者によると、1カ月のGMVが100万元(約2000万円)以上増えたという。 このプログラムではプラットフォームが送料を補填するため、これまで出品者の売上高の30%を占めていた物流コストが不要になる。プラットフォームは売上高の20%を手数料として受け取る。出品事業者は国内の指定倉庫宛てに商品を発送し、受け取りが確認されると商品価格の80%を受け取ることができる。取り引きが成立せずに返品されたとしても、商品は国外の指定された場所に送られ、プラットフォームもしくは保険会社が処理する。 公式発表によると、プログラムの開始以降、すでに20万社以上が参加し、2024年8月には約7000万件の商品が送料無料の対象となった。 アリババは大手EC事業者の中でも海外でのエコシステムが充実し、サービス提供エリアが広い。分散しているため運営の難しさはあるものの、異なる市場に応じた細やかな対応が可能だ。一方でTemuやSHEIN、TikTok Shopはひとつのプラットフォームでほぼ世界全体をカバーするので、より集中的に管理しやすいが、地政学的なリスクも大きい。