サンタに靴下に…今のクリスマスをつくったのは、実は作者不詳の19世紀のある詩だった
新たな伝統
ムーアは、オランダの伝統と魔法的な要素、つまり靴下、煙突の中を降りてくるという神業、空飛ぶトナカイなどを融合させた。それがひな型だったとすれば、米国人たちはそれに忠実に従ったことになる。詩が人気になったことで、オランダにルーツがない家庭にも、靴下をつるしたり、プレゼントを贈ったり、謎めいた聖ニコラウスに仮装したりする風習が広まった。 やがて、さらに別の文化の伝統も取り入れられる。たとえば、ドイツで行われていたクリスマスツリーの飾りつけや、1840年代に英国のビクトリア女王が公式に始めたというクリスマスカードのやりとりだ。 クリスマス商戦に期待する小売業者が、さらにその流れを加速させ、独自の伝統を加えていく。たとえば、赤鼻のトナカイであるルドルフは、百貨店の宣伝を行っていたロバート・L・メイが創ったものだ。 「クリスマスのまえのばん(サンタクロースがやってきた)」の詩も消えることはなく、ルイ・アームストロングやペリー・コモといったアーティストが曲をつけて朗読したり、『サンタクローズ』や『ナショナル・ランプーン/クリスマス・バケーション』といった映画に登場したり、多くのパロディ作品の元ネタになったりしている。 人気の秘密は、子どもも親も簡単に覚えられるリズムや、丸々と太ったいたずら好きなサンタがクリスマスイブに秘密の仕事をするというアイデアにあるのかもしれない。 いずれにしても、これはあらゆる米国の詩の中で、最も多く読まれてきたものの一つに数えられるだろう。また、米国人にとって、進化を続けるクリスマスの意味についての気分や心配を重ね合わせることができる魅力的なひな型でもある。 ひょっとすると、この詩の最大の贈りものは、善意あふれる気まぐれなサンタクロースなのかもしれない。オリジナルの詩の導入部には、「素朴だが、親の愛情を体現した愉快な人物」とある。 ムーアによって生み出されたサンタクロースがあなたの家の煙突を降りてきてくれたのは、ずっと昔のことかもしれない。それでも私たちは、ムーアがつくりだしたクリスマスからも、前の晩に静まりかえった家という普遍的ともいえる魅力からも、決して逃れることはできないだろう。
文=Erin Blakemore/訳=鈴木和博