補選全敗:岸田首相を待つ3つのシナリオ
<シナリオ2:逆風をついての「裏金解散」>
そこで出てくるのが、岸田首相があくまで衆院解散に打って出るシナリオ2、逆風を突いての「裏金解散」だ。9月の総裁選をにらんでの一手だから、解散時期は通常国会の会期末にほぼ限られ、「6月解散-7月選挙」のスケジュールになる。 この場合、首相は解散に先立って内閣改造と党役員人事に踏み切るとみられる。政権に刷新感を出すのが大義名分だが、最大の狙いは茂木敏充幹事長の解任にある。すでに派閥の解消や政治倫理審査会の開催、裏金議員の処分内容などをめぐって、首相と茂木氏の反目は覆い隠せなくなっている。 補選前の4月23日に早稲田大の同窓で首相と親しい山本有二元農相を党経理局長に充てた人事がそれを裏付ける。茂木氏は党の金庫番である経理局長を自派の議員にしようとしたが、首相は選挙前に茂木氏が大金を動かすようになる事態を警戒し、阻んだ。「ポスト岸田」に意欲的な茂木氏には、これ以上首相を支えるインセンティブが働かない。 茂木氏の後任幹事長として有力視されるのは森山裕総務会長だ。森山氏は、岸田政権で反主流と言われてきた二階俊博元幹事長や菅前首相ともパイプがあり、首相にとっては全党の掌握に都合がいい。一部には世論調査で「次期首相」のトップに立つ石破茂氏の幹事長起用もささやかれる。ただし、茂木氏を切った時点で党内はざわつき、総裁選に向けた駆け引きが本格化する。 そもそも内閣支持率が底に張り付いたままの岸田首相に、解散権を行使するだけの気力があるのかという疑問がある。これについては多くの自民党幹部が「首相は政権を放り出す気なんてさらさらない」と口をそろえる。自民党議員の処分を発表した4月4日に首相が「最終的には国民の皆さんにご判断いただく」と記者団に語ったこともこの見方を支える。 首相に近いベテラン議員はこう評する。「岸田はこれまでチワワみたいにワンともほえず、ただニコニコして座っているだけのように思われていたけど、最近は誰のアドバイスも受けずに全部自分で決めるようになっている。その高揚感が伝わってくる」 首尾良く衆院解散まで持ち込んだとしても、選挙結果は厳しいものになる。首相は補選と違って「政権選択」の総選挙ならそれほど負けないと考えているだろう。6月に実施される1人4万円の定額減税が後押しすることも期待している。しかし、国民の自民党への不信は過去10年で最も高い。自公で過半数を割り込む事態が十分想定される。 その場合、日本維新の会を連立与党に加えるという選択肢が浮上する。維新の馬場伸幸代表は昨年8月、ラジオ番組で「選挙をへて、2つの政党では政権を維持できない状況になった場合、いろいろ考える余地が出てくる」と発言している。ただし、公明党は関西で維新に議席を奪われる関係にあるため、連立協議は難航を極めるはずだ。 一方、首相がいくら連立の組み替えで延命しようとしても、惨敗した自民党内から「岸田おろし」の声が強まり、総選挙後の引責辞任を余儀なくされるケースも十分考えられる。この場合も自民党内は大混乱する。