英自爆テロ 実行犯はリビア系、捜査情報の漏えいで英米に軋轢も
米情報機関経由で事件詳細を米メディアが先行報道
今回の爆弾テロでは、事件発生直後から実行犯に関する情報や、具体的な死傷者数が、英メディアよりも先に米メディアによって伝えられた。複数の米メディアが「米情報機関関係者」をソースとして、マンチェスターの地元警察による発表が行われる前に「死者は20人に達する見込み」と速報を出し、CBSとNBCは「容疑者はリビア系の22歳の男性で、名前はサルマン・アベディ」と容疑者の詳細についても報じた。ラッド英内務相は24日、ラジオ番組のインタビューの中でイギリスとアメリカの情報機関が共有していた捜査情報が米メディアに流れたことに怒りを隠さず、「いらだたしく思っている」と語った。「こういったことが二度と起こらないよう、アメリカ側と確認しあった」と、ラッド内相は情報漏えいが再発することはないとの見解を示した。 しかし、ラッド内相のラジオ出演から間もなくして、ニューヨークタイムズが現場で撮影された残留物(爆発物を入れていたとみられるバックパックの一部や、血が付着したままの起爆装置とみられる金属製の小さな筒、殺傷力を高めるために使われたとみられるネジなど)の写真を突如公開。これらの写真も捜査関係者が撮影したものを、アメリカの情報機関と共有していたものであった。またしてもアメリカ側に出し抜かれる格好となったイギリス政府では、多くの高官が進行中の捜査に影響を及ぼしかねないアメリカ側の情報漏えいに憤慨。BBCは25日にイギリスの捜査当局が新たな捜査情報をアメリカ側と共有することを停止したと伝えている。メイ首相も25日に「共有される情報はいかなる場合でも守られる必要があることをトランプ大統領に伝える」と語った。 米情報機関がどういった理由でメディアに捜査情報をリークしたのかは不明だが、25日にベルギーのブリュッセルで行われたNATO首脳会議で、メイ首相はイギリス側の懸念をトランプ大統領に伝えている。トランプ大統領は情報漏えいを激しく批判し、司法省による調査を開始すると発表。しかし、先日ホワイトハウスで行われたロシアのラブロフ首相らとの会談で、トランプ大統領はイスラエルから提供された機密情報を承諾なしでロシアに伝えていたことが判明しており、形は違えども「情報の漏えい」が相次ぐ結果となった。同盟国間の情報の共有は、長い年月をかけて構築された信頼関係の下に行われているが、長年かけて作り上げた信頼関係が崩壊するのにはそれほどの時間を要さない。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト