英自爆テロ 実行犯はリビア系、捜査情報の漏えいで英米に軋轢も
ギャング抗争とIS過激思想に直面するモス・サイド地区
アベディ容疑者はマンチェスター南部のモス・サイド地区の近くで暮らしていた。モス・サイド地区では以前からギャングの抗争が大きな問題となっており、リビア系やソマリア系の若者がギャングの構成員となり、別の組織と対立していた。今年2月にはナイジェリア系ギャングの構成員がリビア系とソマリア系で構成されたギャングと口論になり、発砲事件に発展している。前述したように、マンチェスターにはイギリス最大のリビア系コミュニティがあるが、ギャングに加わる若者が後を絶たない現状は、現地のリビア人社会にとって大きな頭痛の種であった。アベディ容疑者の少年時代からの友人の中にも、ギャング社会に身を投じた者がいたと、複数の英メディアは伝えている。マンチェスターで発生する発砲事件の半数以上がモス・サイド地区で発生しているが、このエリアが抱える問題はギャングの抗争だけではない。 ガーディアン紙は2月、モス・サイド地区を中心とした4キロ圏内で、これまでに判明しているだけで16人がISに戦闘員として志願し、戦死もしくは有罪判決を受けていたと報じた。記事はマンチェスター・アリーナで事件が発生する3か月前のものだが、アベディ容疑者が暮らしていた場所も、この圏内に含まれている。これら16人以外にも、シリアに渡ったモス・サイド地区の住人は存在すると考えられているが、具体的な数は不明だ。 昨年、シリア国内で無人機によるミサイル攻撃で死亡したイギリス国籍のラファエル・ホスティは、リバプールの大学でグラフィックデザインを学んでいたが、2013年に妻と子供を連れてシリアに移り、ISの戦闘員として活動していた。モス・サイド地区で育ったホスティはイスラム国のリクルーターとしても活動しており、マンチェスター周辺でISのメンバーを勧誘していた。2014年にはモス・サイド地区の近くに住む16歳の双子の姉妹が失踪し、のちにIS戦闘員の「花嫁」になるためにシリアに渡ったことが判明したが、2人をシリアに呼び寄せたのもホスティだったという見方が有力だ。英スカイニュースによると、アベディ容疑者は少年時代にホスティと一緒に遊ぶ姿が頻繁に目撃され、2人が通っていたモスクも同じだった。2人とも既に死亡しているが、アベディ容疑者が過激思想に走ったきっかけが、マンチェスターISの勧誘活動をしていたホスティの存在であった可能性は高い。 複数の英メディアは25日、アベディ容疑者が5年前から親しい友人らに「自爆テロを起こすのも悪くない」と繰り返し語り、アベディ容疑者の変貌ぶりを心配した友人らが警察に何度も通報したものの、警察や情報機関は「大きな脅威ではない」との判断を下していたと伝えた。5年前といえば、ホスティはまだイギリスで暮らしており、アベディ容疑者が彼から影響を受けた可能性は否定できない。それ以上に、友人やリビア人コミュニティから少なくとも5回の通報を受けていた警察が結果的に事件を防げなかったことで、警察の対応に問題はなかったのかという疑問も浮上している。 警察の対応が後手に回った背景に、メイ首相と保守党の政策が存在すると指摘する声もある。英警察組合のスティーブ・ホワイト議長は24日、保守党政権がスタートした2010年から2万人以上の警察官が人員カットの対象となり、毎年4パーセントの予算カットが実施されている実態を明らかにしている。警察の人員・予算カットにゴーサインを出したのは、2010年に内務相に就任したメイ氏であった。2015年には、「予算カットで地域パトロールの回数が減ると、テロを未然に防ぐことはより難しくなる」と、マンチェスター警察がメイ氏に警告していた。