かつてアバルトと二大勢力だった「ジャンニーニ」とは? フィアット「128」チューンドカーは穏やかな高性能で旧車ラリーにもピッタリです【旧車ソムリエ】
ローマの老舗チューナー「ジャンニーニ」によるホモロゲートモデル
ところで、往年のフィアットをベースとしたチューナーとしては「アバルト」があまりにも有名ながら、フィアット128にはアバルト製コンプリートカーおよびチューニングキットの用意はなかった。しかし、その代わりというわけでもないだろうが、当時アバルトに次ぐ存在だったローマのレーシング工房「ジャンニーニ(Giannini)」が、当時のFIA「グループ2」ホモロゲートモデルとして「フィアット・ジャンニーニ 128NP」をキットおよびコンプリートカーとして、1971年から販売することになった。 ジャンニーニ社は、1920年にアッティーロとドメーニコのジャンニーニ兄弟がローマに開設した修理工場が起源とのこと。つまり、1949年創業のアバルトよりも長い歴史を誇る老舗で、1940~1950年代には「ジャウル・タラスキ」などの小型レーシングスポーツに、フィアット由来のチューニングエンジンを供給していた。 また1950年代から1970年代にかけては、フィアット「500」や「600」、「850」などをベースとするチューニングカーを数多く開発・販売し、この時代におけるアバルトと二大勢力を築いていたとされている。 ただしコンプリートカーとはいえ「ヌォーヴァ チンクエチェント」をベースに仕立てた「590GT」などの一連のレーシングモデルを除けば、アバルトほどにスパルタンなレース指向ではなく、カタログ状態では内外装ともにほぼフィアットの生産型と変わらなかった。 このフィアット・ジャンニーニ 128NPも、フロントグリルに「Giannini」のエンブレムがつき、インテリアでもウッドの3スポークステアリング以外は、スタンダードの128ベルリーナ(セダン)と大差なく、とてもジェントルな仕立てとなっているのだ。
ロングツーリングだって苦ではない、安心・安定のドライブフィール
今回の「旧車ソムリエ」取材にあたって、クラシック・フィアットについては国内最上級のオーソリティである「チンクエチェント博物館」(愛知県名古屋市)からご提供いただいたのは、フィアット・ジャンニーニ 128NPとしてはかなり初期のモデルである1972年式。イタリア国内のクラシック・フィアット専業カロッツェリアでレストアされたばかりだそうで、その事実を裏づけるように、新車時代を想像させる素晴らしいコンディションを誇る1台である。 128全体の美点なのか、それともこの個体のレストアが優れているのかは定かでないが、まずは「ボディ剛性」という概念が一般的となる以前に作られたものとしてはかなり秀逸なボディのシッカリ感に感心しつつ、同じく1960年代のフィアットには望めなかった、たっぷりとしたクッションの頑丈なシートに腰を降ろした。 そして、猛暑の夏ということもあってチョークレバーを引くこともなくキーをひねると、直列4気筒SOHCエンジンにはすぐ火が入り、そのまま安定したアイドリングに移行する。 ジャンニーニに関する資料はきわめて少ないので、この個体についても不明な部分が多いのだが、同社の手がけた128用の4気筒エンジンは、フィアット本家版から排気量はそのままながら、キャブレターの大径化やチューニングヘッドで、スタンダードの55psから66psに増強されているとのこと。つまり排気量が不変ということは、ボア80.0mm×ストローク55.5mmという超ショートストロークであることも変わらない。 でも、そのオーバースクウェアな数値のわりには低・中速トルクに不足はなく、800kgを少し超えるだけという軽い車重のおかげもあって、交通量の多い市街地であっても、流れの速い田舎の街道にあっても、じつに心地よい加速感を披露してくれる。 また、スロットルを深く踏み込んでも必要以上に咆哮を荒げるようなことはなく、この時代の4気筒エンジンらしい「ブォーン」という長閑で健康的なサウンドをスムーズに放出。キャブレター付きエンジンらしい素直なレスポンスもあわせて、かつてはエンジンスペシャリストとして名を馳せたジャンニーニの実力を体感させる。
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