持続的な成長が期待される2大ギガトレンドが市場をけん引、「アセアン・ギガトレンド株式ファンド」の魅力
アジアの株式ファンドに対する注目が高まっている。9月下旬まで史上最高値を更新しているインド株式の人気が強いが、9月下旬に大規模な景気刺激策を打ち出した中国にも低迷が続いていただけに見直し機運が出てきた。その中で、「アセアン市場の高い成長可能性が見過ごされている」と、日興アセットマネジメントのシンガポール拠点である「日興アセットマネジメントアジア」で、アジア地域全域の株式やREITを担当するシニア・ポートフォリオ・マネージャーであるエリック・カウ氏(写真)は指摘する。同氏にアセアン市場の魅力と同社が運用する「アセアン・ギガトレンド株式ファンド」の運用の現状について聞いた。 ――アジアといえばインドに注目が集まるが、「アセアン」の魅力は? アセアンに上げられる特徴は、人口の増加が大きく、その中で若年層も多いこと、そして、起業家の意欲も力強いというところでしょう。また、「チャイナ・プラス・ワン」(中国への依存度を減らすため、中国以外の国や地域に拠点を分散させる経営戦略)の立ち位置としても、中国からインドやアセアン地域に様々な生産拠点が流れてきています。また、インドではモディ政権による経済改革が奏功していますが、アセアンにおいても成長推進派のトップが多く、政治体制も基本的に安定しています。たとえば、インドネシアは積極的な経済改革を進めていて外国からの投資もどんどん増えています。産業化、消費の拡大、政府の後押しなど、アセアンはインドに近い経済状況にあると言えると思います。 一方で、アセアンの成長のスピードはインドほど大きな成長率ではありません。これは経済水準が低い位置から近年急速に成長、発展を遂げたインドに対し、アセアン地域はインドよりも高い経済水準にあったことによるものです。ただ、アセアンの株式市場のPER(株価収益率)は10倍台半ばくらいのところ、インドは20倍を超えています。インドは高い経済成長が既に一定水準株価に織り込まれていることに対し、アセアンの株式市場は依然として割安な水準にあると考えています。また、アセアンは中国経済の影響を強く受けやすいという点でもインドと異なります。 ――当ファンドが注目している「ギガトレンド」とは? 2つのトレンドがあります。「インダストリアライゼーション(工業化)」と「消費の高度化」です。「工業化」においては、サプライチェーン・シフトがやはり大きなポイントです。たとえば、マレーシアは半導体やテクノロジー関連でペナンが半導体のハブとしても知られるようになってきています。FDI(海外直接投資)もここ数年、前年実績を上回って伸びています。 シンガポールの隣にあるマレーシアのジョホール・バルもデータセンターとして伸びています。シンガポールは国土が小さいため、電力等のエネルギーインフラも強くないので、マレーシアが補完的な役割を果たし通信用ネットワークケーブルの到着地として機能しています。東から西にネットワークをつなげる中継点のような役割を担っています。シンガポールがデータセンター関連ビジネスを強化しようとしている中で、ジョホール・バルにはシンガポールの10倍に相当する用地があり、今後、ますます注目を集める存在になると思います。 タイやインドネシアはEV(電気自動車)のサプライチェーンとしても台頭してきています。特にインドネシアはニッケルを産出しているので、世界のEV関連企業への素材の供給拠点としても力をつけてきています。 この「工業化」の発展は、もうひとつのトレンドである「消費の高度化」に支えられている部分もあります。人々の所得が上がり、自動車等の販売が好調で、必需品だけではなく一般的な消費財への支出が伸びています。消費の拡大を示す特徴的な動きとして、オンラインサービスやオンラインバンキングの急速な拡大があります。銀行サービスがオンラインで受けられるようになることによって、小売り、配車サービスなどオンラインサービスも成長しています。デジタル化が進展し、ディスインフレが続く中で、所得水準が上がって支出が拡大するというトレンドは今後も続くと確信しています。 また、今後、自国通貨に対してドルが安くなっていく(自国通貨の価値が上がっていく)と考えられるので、米国から輸入して自国で販売するという事業には追い風になります。このような通貨の動きも企業の利益率を押し上げる要因の1つになると考えています。 ――当ファンドに組み入れ銘柄を選定する際に重視するポイントは? まず、持続可能性の高いリターンをあげているかどうかです。そして、構造的にポジティブな変革があるかどうか。3つ目が人口ボーナスに関係する部分で、サプライチェーンのシフトによって成長につなげていけるかということです。そのうえで、バリュエーションも意識して割安な銘柄に投資するようにしています。バリュエーションの点では、現在は依然として割安な状態にあると考えています。 ――アセアン地域の企業を調査する運用チームの体制について教えてください。日興アセットマネジメントアジアの強みは? 当社のアジア株式チームには多様性があります。アジア地域は成長が早く、しかもそれぞれの国・地域における成長の差異、ニュアンスの違いがあります。1つの事業がある地域では急成長し、別の地域では成長のスピードが遅いといったような、地域ごとの違いをくみ取ることができる体制であることが重要だと考えています。 運用担当者は15名、そこにESGを専門に担当する1名を加えて計16名体制になっています。出身国はインド、中国、パキスタン、オーストラリア、アイルランドなどさまざまで、チーム全体でアセアン各国の10の言語を全てカバーしています。多様性は国籍だけでなく、資質・強みの面でもさまざまです。私は将来何が起こるのかということについて非常に強い興味を持っていますが、同僚のピーター・マンソンは歴史からさまざまな事象を分析することを得意としています。多様なバックグラウンドを持ったメンバーがアジア各国に定期的に出張し、現地で企業の成長ドライバーや興味深い投資対象を発掘することに努めています。 また、運用に関してはボトムアップを重視しています。ボトムアップで調査しないと持続的に良いリターンをあげられるポジティブな変革を起こしている企業を見つけ出すことはできません。 ――当ファンドは2023年9月26日の設定から1年間が経過し、設定来の基準価額は24年10月末時点で17.73%の上昇です。この間の運用成績に対する評価と今後の見通しは? 過去3-4年間の投資環境はアジア地域にとって特殊でした。米国が利上げし、中国経済が弱く、かつ、米ドルは強いという環境でした。本来であれば、このような環境下では、株式市場は低迷してもおかしくないのですが、実際には堅調に推移しました。 ここ数年でアセアンの政治は安定し、さらに成長する準備ができていると思っています。今後もさらに同程度、または、それを超える成長を目指すことができると考えています。それは、サプライチェーンのシフトがより活性化されることになるからです。アメリカに労働力は不足していますし、今後の米中対立の激化など地政学リスクによって生産拠点の分散化やサプライチェーンの複線化などのニーズが一段と高まると考えられるからです。 今後、トランプ政権によって関税が強化された場合は、たとえば、アセアンに10%の関税が課されるということになれば、アセアン通貨が下落するリスクがあり、今後の通商交渉は慎重に見ていく必要があります。ただ、米国が中国に対して高い関税を課すことになれば中国は今以上の景気刺激策を打ち出すことになると思います。この中国の刺激策はアセアンにはプラスに働くと考えています。 ただ、トランプ政権になってもディスインフレの動きは変わらないだろうと考えています。トランプ新政権の政策による関税の問題はありますが、今後、米国が一段と利下げに動くであろうこと、インフレが落ち着いた状態を続けるだろうということを考えると、アセアンの成長には良い環境が続くと考えています。
ウエルスアドバイザー