ホンダ&日産「大企業の経営統合」に立ちはだかる難題 社風の違い、重複する商品や販売拠点…かつてはサントリーとキリンの統合話も破談に
日本経済全体の今後を左右する“世紀の経営統合”の背景に蠢いていたのは、恩讐と策略だったのかもしれない。さまざまな思惑や権力闘争を経て辿りついた統合劇は、いったい何をもたらすのか──自動車業界に精通するジャーナリスト・井上久男氏がレポートする。【全3回の第1回。全文を読む】
日産自動車の内田誠社長とホンダの三部敏宏社長は12月23日、共同持ち株会社設立による経営統合に向けて検討する基本合意書を締結したと発表した。三菱自動車の加藤隆雄社長も会見に参加し、この経営統合計画に加わるか否かを検討することを表明した。 この「3社連合」が誕生すれば、日本の自動車産業史上最大の「合併」となる。3社合計の2023年度のグローバル販売台数は約837万台。トヨタ自動車、独フォルクスワーゲンに続いて世界3位の規模となる。 今回の経営統合交渉入りは正式発表前の12月18日午前2時に突如、日本経済新聞電子版がスクープして明らかとなった。 すでに日産とホンダは2024年8月、電気自動車(EV)領域を中心に協業することを発表。EVの車載OS(基本ソフト)、蓄電池、モーターとそれを制御するパワー半導体などが一体化したイーアクスルで設計を共通化し、蓄電池については相互供給も行う計画だ。 両社は次世代の車の基本性能に関わる根幹で手を握ることになる。8月の会見で内田、三部両氏は、両社が将来的に資本提携に向かう可能性があることを否定しなかった。
しかし、大企業の経営統合は簡単ではない。業界は違うものの、サントリーホールディングスとキリンホールディングス、三菱重工業と日立製作所は経営統合交渉していることが報じられ、交渉していたことは紛れもない事実だったが、最終的には破談となった。 社風の違いや、重複する生産・販売拠点の最適化など話し合うべき課題は多く、面子にかけて譲れない点もある。日産とホンダは社風も全く違う。 労働組合に経営が支配されたり、ゴーン事件が起こったりと、「技術の日産」と言いながらも社内権力闘争が起こりがちな日産と、自動車レースの最高峰「F1」に参戦するなど「夢」を大事にしてきたホンダを見ればそれが一目瞭然だ。 加えて両社は長年、激しい競合関係にあった。特に両社が収益源とする北米市場では競い合ってきた。統合交渉では北米での商品や生産拠点の重複問題は大きなテーマになると見られる。 2019年頃から筆者は、絶対的に強いトヨタグループ以外に、もう一軸を国内企業で作ることが国内の産業基盤の強化につながると考え、「日産とホンダは手を組むべきだ」との論陣を張ってきた。誰よりも深く両社を観察してきたとの自負がある。そうした立場から見ても資本提携に行きつくには、あと1年くらいはかかるのではないかと思う。8月に協業を発表した後にそう感じた。 ■特集全文公開:ホンダ&日産が経営統合へ、巨大連合“誕生”の裏で起きていた内幕 水面下で蠢いた“台湾の巨大企業”と日産“元ナンバー3”の逆襲 【プロフィール】 井上久男(いのうえ・ひさお)/1964年生まれ。ジャーナリスト。大手電機メーカー勤務を経て、朝日新聞社に入社。経済部記者として自動車や電機産業を担当。2004年に独立、フリージャーナリストに。主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』などがある。 ※週刊ポスト2025年1月17・24日号