Wメダル&トリプル入賞 日本の男子50km競歩はなぜ強いのか
荒井の金メダル級のサポートが実を結び、日本勢は2つのメダルを獲得。荒井は目標タイムに届かなかったものの、集団のなかで変幻自在のレース運びを見せて、勝負どころでは自ら仕掛けた。小林と丸尾は大舞台で自己ベストを更新して、目標タイムもクリア。男子50km競歩トリオは全員がしっかりと結果を残したことになる。 なぜ男子50km競歩が強いのか? と荒井に尋ねると、「強化選手は一緒に同じ合宿をしながら、同じ場所で練習をしています。食事も一緒で、交流を持ちながらやってこられたのが良かったのかなと思います」と答えた。今村コーチも、「長期の合宿を経て、今大会に臨んでいるので、簡単な言葉で、本人のなかで動きが修正できるんです。合宿を通して、言語の共通理解ができていたのが良かったと思います」と付け加えた。 競歩はスピードだけでなく、「歩形」も大切になる。世界大会の競歩は2kmの周回コースで行われるが、日本勢はスタッフを随所に配置。前後の選手とのタイム差を知らせて、今村コーチは歩形が崩れていないかも目を光らせている。競歩チームは高い組織力で結果を残し続けているのだ。 そして、50km競歩は世代交代もスムーズにいっている印象がある。 たとえば、荒井は今回が4大会連続の世界選手権出場だが、世界大会でメダル獲得や入賞をしている谷井、森岡紘一朗(富士通)などと強化合宿などで同じメニューをこなして、自信をつけた。「国際大会で活躍した選手たちと同じトレーニングをすることで、『自分もできる』という気持ちになると思います」と今村コーチ。そして、世界大会では先輩から多くのことを学び、最年長となった今回は逆に初出場となった小林と丸尾をナビするなど、選手たちの人間関係も好循環を生んでいる。 さらに今回はコンディショニングも良かったという。「男子50km競歩は過去のデータを積み上げてきたなかで、暑さ対策、調整なども非常にうまくいきました。レース展開も前半から思うような状況で、最後まで押していけたのがこういう結果につながったかなと思います」と今村コーチ。2020年東京五輪に向けた暑さ対策のなかで、個別の発汗量、体重の減少に応じた給水量に対応するなど、最先端の科学サポートもしっかり取り入れている。 「数年前には考えられないことが現実になってきて、今の時代に競歩をやれて幸せだなと思います」と荒井が言うほど、日本の競歩は充実している。一時は、オリンピック種目か除外される話もあった50km競歩だが、2020年の東京五輪では大きくクローズアップされることになりそうだ。 (文責・酒井政人/スポーツライター)