ふるさと納税制度「廃止を含めた見直し」東京23区が訴えるも…“参戦”決めた「千代田区」の思惑と勝算は?
千代田区の“戦い方”
千代田区といえば東京のど真ん中、大手企業や皇居、日本武道館、国立劇場、東京国際フォーラムなどを擁する、「ザ・東京」といえるエリア。街としての魅力にあふれる。一方で、多くの人が「観光で訪れる場所」であり、あえてふるさと納税の返礼品を獲得するニーズがあるのかは未知数だ。 その点について千代田区総務課課長の佐藤氏は次のように戦略を明かす。 「千代田区では、地方都市のように豊富な農産物や水産加工品を返礼品として提供できるわけではないため、次の2点を念頭に置いています。 1点目は、区内にある企業の製品を返礼品とする中でも、江戸、明治、大正、昭和と時を重ねてきた伝統と歴史ある老舗の返礼品の充実を心掛けることです。 2点目は、千代田区に足を運んでいただき、家族や友人と千代田区で過ごす時間、千代田区の魅力を感じて過ごす体験を楽しんでいただける、または役務の提供を受けられる返礼品や電子商品券を用意することです。 ふるさと納税をきっかけに区外の方々に千代田区の個性的なまちに足を運んでいただき、区の魅力を知っていただくことは、周辺地域の活性化につながるものと考えています」 知られざる千代田区の魅力をしっかりとPRしつつ、体験も提供することで地域活性化につなげるーー。地方がともすれば「お得感」を打ち出しがちなのとは対照的に、シンプルに地域の良さを知ってもらうことを大切にしている点は、ふるさと納税の在り方に対する皮肉のようでもある。 開始から約2か月が経過しているが、滑り出しは順調だ。日比谷松本楼のカレー/デミグラスハンバーグ、江戸時代からそばのまちとして知られる神田でのそば打ち体験などが人気で、区内の施設でも使えるPayPay商品券、楽天トラベルクーポン、ふるなびトラベルクーポン、チョイスPayなどの電子商品券も好評という。 「街並みの良さ、個店の良さなどは、観光のガイドブックを読むだけでは体感し得ないもので、実際に訪れ五感で触れることで実感できるものだと思います。 区内のホテルやレストランで使える電子商品券をお店で利用する道すがら、区内の各地を散策したり、返礼品の食品が自宅に届き食べてみたら美味しかった、じゃあ次は直接お店に行って食べてみようなど、体験を通じ、より千代田区に親しみを感じてもらえれば。 千代田区は、エリアごとにさまざまな顔(特徴)を持っています。サブカルチャーの秋葉原、本といったら神保町、楽器街のお茶の水、スポーツ店街の小川町、官庁街の霞が関に政治の中心地・永田町など。 また、江戸時代の政庁であった江戸城(現・皇居)と、近代都市国家の象徴である大丸有(大手町、丸の内、有楽町)地区の高層ビル群も擁しており、400年余の時間の対比が、内堀通り・日比谷通りを一つ挟んで感じ取れるというのも、悠久の浪漫を感じられるポイントです。 返礼品を通じて、千代田区にぜひとも来訪し、地域の魅力を肌で感じていただきたいと思っています」(佐藤氏) 高所得者に有利、都市部居住者の他地域への寄付による税収流出(住民税収入の減少)、寄付の動機が返礼品目当てになり真の寄付文化が育たないなど、制度開始以来付きまとう問題はいまだ十分な改善に至っていない。 廃止も含めた見直しを迫る特別区にとって、ふるさと納税への参戦は苦渋の決断といえるが、寄付者の目を東京に向けることができれば、ひとまず最低限の一矢を報いることにはなるかもしれない。
弁護士JP編集部