10万円チケット完売!なぜ卓球プロリーグ「Tリーグ」が誕生したのか?
開幕戦の高額10万円チケットは完売
そこでTリーグはこれまでの日本になかった新たなシステム作りを目指し、その一つとして国内にいながら世界レベルの競技力を身につけられる競技環境を作ろうとしている。 近年、五輪や世界選手権などの国際大会で当たり前のようにメダルを持ち帰る日本卓球の躍進は、日本卓球協会が2000年代に入り力を入れてきた若手選手のタレント発掘や育成強化のたまものと言えるが、選手たちが育ち高い競技レベルに達した時の練習相手の不足や試合環境には課題を抱えてきた。 実際、男子は水谷隼がわずか14歳でドイツに卓球留学したのをはじめ、高い競技レベルで試合経験を積むためロシア・プレミアリーグに参戦。他にも日本人選手が欧州へ渡り、現地でプレーするのが定番となっている。だがこれには食事や言葉の壁、練習時間の確保などにリスクを伴うため、特に年齢を重ねてきた近年の水谷は「日本にプロリーグがあれば」と、その発足を熱望していた。 また女子でも昨年、石川と平野が参戦を希望した世界最高峰の中国超級リーグから受け入れを断られるという事態にも高いレベルの練習環境や試合の場を海外に求めなければならないトップ選手ゆえの悩ましい事情が垣間見える。 Tリーグのチェアマンで日本卓球のプロ第1号でもある松下浩二氏も1997年にドイツのブンデスリーガに活路を見出したとあって、「世界のトップ選手たちが向こうから来てくれる魅力的なリーグが日本にあれば、日本の選手たちは国内にいながら腕を磨くことができる。そのためには世界一の卓球リーグを目指す必要がある」と日本におけるプロリーグの必要性を強調してきた。 だがTリーグを世界一の卓球リーグに押し上げるには、実力のある選手のさらなる確保や、年間1億5000万円の予算が必要なチーム集め、資金調達など課題は山積している。 また2020年以降には、Tプレミアに続き2部リーグにあたる「T1」、3部リーグの「T2」を新設し、さらに「T3~5」と市町村に裾野を広げる計画もあるため、今以上のマンパワーや各地の行政・企業との連携も必要となってくる。しかし、これを実現することで、「子どもたちの育成を柱とした競技普及や現役を終えた選手を指導者として受け入れるセカンドキャリアの受け皿にもなれる」と松下チェアマンは言う。 新リーグの立ち上げは茨の道にほかならない。実際、Tリーグの行く末を危ぶむ声があるのも事実だ。しかし、日本のスポーツ界全体を見渡した時、東京五輪の熱狂が過ぎ去った2020年以降を懸念するムードは色濃く、そこに先手を打ったのが卓球のTリーグと言えるのではないか。 今日のTリーグ開幕戦にあたり明るい話題を一つ。観戦チケットの通常価格は1000円から1万8000円に設定されているが、開幕戦が行われる両国国技館に限っては、最高値10万円のSプレミアムシートが用意された。卓球界では考えられない破格の料金設定に当初、驚きの声が上がったが、蓋を開けてみれば、開幕初日の10万円チケットは見事に完売した。Tリーグの発足が卓球界に新たな風を巻き起こすかもしれない。 (文責・高樹ミナ/スポーツライター)