潔く、強く儚き草彅剛、齊藤工、眼に映して。
奥ゆかしき演技の天才――草彅剛に対して、そのような印象を持っている。もちろん映画『ミッドナイトスワン』では、「トランスジェンダーの凪沙」を演じて数々の映画賞を受賞した。けれど、草彅剛という表現者は「スペシャルな役柄」を演じなければ評価されないような、そんな凡庸な俳優ではなく、どんな役を演じてもその役になりきり、かつ草彅剛という残り香がふわっと漂っている最上級の俳優。そして、普段見せる顔は、真摯で奥ゆかしい。フィガロジャポンでも何度か草彅を取材しているが、その度、気取りなく周囲の誰に対しても丁寧な対応に癒されて、かつ敬意を感じる取材時間になる。
「デビューからずっと第一線で、誰よりも真ん中にいる方なのに、周りの誰一人置いてきぼりにしない方。それは共演者やスタッフ方はもちろんですが、衣服や食べ物、美術にいたるまで。ご自身の輝きであらゆるモノを照らす方。だからこそずっと最前線でずっと真ん中にいらっしゃるのだなと、お会いする度に感銘を受けます」(齊藤) 草彅剛のポートレートを撮影した齊藤は、白石和彌監督組の常連俳優でもある。白石監督の映画『碁盤斬り』にてふたりは共演、それも敵役だ。 草彅が演じる柳田は、江戸の町の長屋で慎ましくハンコを彫る仕事で生計をたてている。武士という役柄、そして実直で頭脳明晰で観察力の高い囲碁を打つ姿は、透明感のある美を宿している。そして、気高い生き方は他者に伝播し、影響を受ける町の人々の風情を描いて、観客の心に優しさを覚えさせる。
「共演者である私が撮る接写だし、照れ臭さもあったと思いますが、シャッターを切り始めると剛さんが放つモノからか、周りの空気が静まり返り研ぎ澄まされる感覚がありました。同時にこちらの撮りたい"何か"はこれだったんだ、と提示してくれる感じ。 ちなみにこの日の剛さんは、朝から晩まで大量の宣伝活動、舞台挨拶等が分刻みに組まれていて、いちばん最後の『ボクらの時代』の長い収録後に、この活動寫眞館の撮影時間をいただきました。なのに一切、本当に一切嫌な顔も、疲れた空気も1ミリも出さずに私に向き合って下さいました。 草彅剛さん、尊敬しかないです」(齊藤) 5月17日より公開中の『碁盤斬り』は様式美に基づく見事な時代劇。引き絵で映る鮮やかな赤い椿の花で感じる季節感や、屋敷の中にあるそういった自然と、人々の暮らしの中に差す太陽の光が時間軸で変化していく様の映し方も、至極美しい。 その画面のなかに映える、草彅の潔く強く儚い姿を、観る人たちはたっぷりと堪能できるはずだ。