これがホントにゲームかよ! 歌舞伎町で行われたeモータースポーツの世界大会に潜入したら衝撃の盛り上がりだった
国別代表戦であるネイションズカップではまさかの大逆転が発生
ところがここで観劇の幕間よろしく、18時30分過ぎから19時半まで約1時間の休憩が挟まれた。ホワイエには、ドリンクコーナーに飲み物を買いに来る観客や、Tシャツなどノベルティグッズを買い求めるファンが並び、まるでレースというより、コンサート会場さながらだ。相変わらず、ドライバーたちとの距離も近い。 するとマツダスピードの育成プログラム候補生で、先ほどのレースで中盤まで暫定トップや2位を走り、6位でレースを終えた鍋谷奏輝選手が通りかかった。マツ耐でリアルのレースもすでに経験している彼が、今回のレース結果をどう受け止めているか、聞いてみた。 「もちろん満足いく結果ではなかったですが、最低限の1ポイントを取れました。最終ラウンドでこのポイントがどう効いてくるかわかりませんから。レース展開については……、もともとミッドシップのクルマにはタイヤに厳しいコースであることは意識していたんですが、ソフトタイヤを長くもたせる走りが自分には足りなくて、上位のドライバーたちはその辺りが巧いと感じました」 さすがに自己分析も明快で、結果と自分の走りを客観視できている。マツダの育成プログラムで習った内容はどう活きているか問うと、独特のいいまわしで答えた。 「役に立っているなんてもんじゃないですね。リアルのレースだけじゃなくeスポーツでも。ドライビングに対するアプローチというか引き出しがいろいろ増えたというか」。 いよいよ19時30分からはエグゼクティブプロデューサーの山内一典氏も楽しみにしていたという、東京エクスプレスウェイでのスプリントレースだ。先ほどのマニュファクチャラーズカップまでは赤だった照明が青に切り替えられ、12人の出走ドライバーのうち日本人はふたりのみと、先ほどとは逆の比率になる。 F40やメルセデスAMG GTを交えつつ、1000馬力超えのチューンドRX- 7やNSXタイプR、スープラRZといった1990年代の東京に舞い戻ったかのような、各ドライバーのドリームカーチョイスが面白い。しかし、R32とR33とR35、さらにニスモ400Rまで並んだスカイライン比率の高さ(すべて外国人ドライバー)は、圧巻としかいいようがなかった。 深夜の首都高そのものの雰囲気でスプリントレースはスタート。ランボルギーニ・ガヤルドLP560-4の宮園拓真選手と、アウディR8 V10プラスを選んだ佐々木拓眞選手という、日本人ドライバーふたりがレースを引っ張る展開となった。約7kmものストレートエンドでは400㎞/hオーバーのブレーキング競争が繰り広げられ、銀座や汐留界隈で徐々に夜が明けていくような街の景色は、もうほとんど漫画のような世界だった。 レース展開も漫画のようだった。軽さに優る2駆マシンは、コーナーは早いが低速コーナーの立ち上がりではトラクション自慢の4駆マシンが加速の伸びでとり返す。10周スプリントのなかで何度となく400km/h超からのブレーキング勝負が繰り返されては、ときに数台がもつれるなど、トップドライバーたちとはいえストリートでのレースはやはりファイト感がハンパない。 残り3周、ガヤルドの宮園選手が1コーナーではらんだのを突いて、トップの座は2021年のネイションズカップ勝者、イタリアのヴァレリオ・ガロ選手のNSXタイプRに渡った。とはいえ5位のアンゲル・イノストローザ選手までは僅差で、ふとしたきっかけでオーダーが入れ替わる展開。 そんななか、ファイナルラップの最終コーナーで、2位ポジションの宮園選手が果敢にレイトブレーキでアウトから立ち上がり重視のラインをとった。前を行くガロ選手のNSXタイプRに対し、4駆のトラクション勝負を仕かけたのだ。そしてチェッカーまでの短いストレートで、0.003秒差、NSXを抜くことに成功したのだ。ストリートレースらしい劇的な幕切れに、会場ではこの日一番の、観客の絶叫が響き渡った。最後まで冷静にクルマの特性を活かし切った、宮園選手の勝利に誰もが拍手喝采を送った。 それからGT伝統のコース「グランバレーハイウェイ」にて、いよいよ27ラップで争われる決勝がスタート。ここで下位グループからのスタートだった数台が大胆な作戦に出る。ハードタイヤを早々に捨て、ミディアム次いでソフトで追いかける展開としたのだ。 トップ3は先ほどのスプリント同様、宮園選手、ガロ選手、佐々木選手でレース序盤は推移した。ひとりソフトを履く宮園選手が逃げ切りを図るが、6ラップ目に4輪逸脱で+1秒のペナルティを加算されてしまう。一方で、背後の佐々木やガロらミディアム勢はなるべくラップ数を重ねる展開で、15ラップ目になってもトップ5台がノーピットで走り続けた。 だが16ラップ目に佐々木選手とガロ選手がピットインするとレースが動いた。3位のホセ・セラーノ選手がステイアウトでもう1周し、佐々木選手はハードタイヤに換えて給油せず、ガロ選手はソフトを選んで給油も行った。セラーノ選手は翌17ラップ目にピットイン、2スティント目はハードタイヤで無給油でコースに戻った。かくして17周目に宮園選手がトップに復帰するが、ミディアムをかなり使い終わってあとはハードタイヤしかないところを、下位スタートから追撃策を選んだセラーノ選手とキリアン・ドルモン選手に突かれる展開となった。 セラーノ選手は追撃時に佐々木選手に後方から接触して+1秒のペナルティを課されてしまう。ドルモン選手は24ラップ目の右ヘアピンで宮園をクリーンに抜き去った。こうしてソフトタイヤで最後のほぼ10周を攻めた、ドルモン選手がトップチェッカーを受けた。できるだけ燃料の軽い状態でミディアムとソフトを見事に使い切ったのだ。 表彰式では、今度はフランス国歌が高らかに流れ、ミシュランマンの直立不動ぶりも、さらに一段と引き締まって見えた。 かくしてフランスのキリアン・ドルモン選手がネイションズカップのポイントランキングの暫定トップに立ったが、1ポイント差の2位にはスペインのホセ・セラーノ選手、日本の宮園拓真選手、イタリアのヴァレリオ・ガロ選手という、ネイションズカップ元王者3人が同点で並ぶという、激しい接戦となった。 観客の目の前で勝敗がつくのがライブ開催のレースとはいえ、今回の東京ラウンドで躍動した宮園拓真選手のコメントが、今シーズンの熱さをそのまま物語っている。 「結果はもちろん満足してないけど、レースの内容には満足しているので、ワールドファイナルへ(マニュファクチャラーズカップで3度目、ネイションズカップで2度目の)、チャンピオンに向けて頑張っていこうと思います」。 ワールドファイナルは12月6~8日にかけて、アムステルダムで開催されることになっている。
南陽一浩