名門ラグビー部をパワハラで解任された“しくじり監督”が、現場の指導者に伝えたいこと
松井英幸氏は、パワハラによって名門ラグビー部の監督を退任された後、自分の価値観を押しつける誤った指導法に気づいたという。現在は、指導者の育成に携わる一方で「俺みたいにはなるな!」と講演活動にいそしむ日々だ。そんな松井氏が、現場の指導者に伝えたいこととは。本稿は、松井英幸『パワハラで人生をしくじった元名監督に学ぶ 変わる勇気』(アチーブメント出版)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 真剣に叱ることが 愛だと思っていた 私は自分の正しさ、自分の価値観を押しつけ、相手の行動を変えようとしていた。それが愛だと思ったし、真剣に叱ることが愛だと思っていた。 だが、そういう思いが、いつの頃からか伝わらなくなってきたのだ。 でもそれは、すべてはチームのために、そして部員たちのためにと思ってやってきたことだ。 流通経済大学付属柏高校ラグビー部では毎年、卒業式の前日に卒部式を行っている。卒部式には卒業生の親御さんも招き、学校のグラウンドで卒業生と1、2年生が試合を行う。親御さんたちも、お子さんと同じジャージを着て試合に参加する。OBも卒部式に駆けつけ、卒業生だけでなく、2年生と1年生の部員たちとも試合をしてくれていた。 卒部式は、卒業生と在校生、OBに加え、親御さんが集まる唯一の機会で、総勢約200人がグラウンドを埋め尽くす。試合が終わったあとは、みんなで豚汁の炊き出しをしたり、バーベキューを楽しむのだ。 卒部式のイベントが一巡したあと、卒業生、親御さん、在校生、OBが車座になってグラウンドに座り、セレモニーを行う。 私は毎年、卒業生1人ひとりに卒業の記念品を手渡し、1人について10分ぐらいで3年間の思い出を、みんなの前で語った。
私が監督を務めていた頃、流経大柏高校ラグビー部の部員は、各学年で平均20~25人ぐらいいた。毎年、それだけの人数の卒業生1人ひとりについて、3年間の思い出を語るのは時間がいくらあっても足りないくらいだ。 指導者である私自身が1人ひとりにどれだけ目をかけ、真剣に向き合い、成長をサポートしてきたかが、試されるときでもある。 1人ひとりの思い出話のあとには本人へのメッセージを添え、たとえば、その部員が挫折を乗り越え成長する姿を、私がどんな思いで見守っていたかという気持ちを伝えた。 ● 本当の意味でのメダリストは 花園に出られなかった部員たち 親御さんたちはとても喜んで下さった。私の思い出話をとおして、わが子の成長ぶりを改めて実感してくれたことだろう。 それも大きな励みになり、私は指導に打ち込んでいた。 話を戻すと、卒部式でOBが卒業生だけでなく、2年生、1年生とも試合をしていたことには大きな意味がある。 スポーツ競技では、レギュラーメンバーとして試合に出ている選手にスポットライトが当たるもので、それはラグビーに限らない。 だがチームには、一生懸命頑張ったにもかかわらず、レギュラーに選ばれなかった選手が数多くいる。