連立政権が崩壊したドイツは、もはや「末期症状」…!解任された財務大臣がショルツ首相に突き付けていた「最後通牒」
潰されてきた政策の数々
簡潔にまとめると、 ■景気回復のためには、ばら撒きでなく構造改革。 ■各種規制を見直し、以後3年間、企業の負担となる規則(たとえばサプライチェーン法)はなくし、新しい法律や規制も作らない。 ■27年を目処に連帯賦課金(東西ドイツの統一の後、旧東独の支援のために作った税金)を全面廃止。法人税の減税、児童手当の増額。 ■気候保護に関する目標値を見直し、ドイツだけが掲げている極端な目標は撤廃。気候対策に対する補助金は、再エネの買い取りを含め全て廃止。CCS(炭素回収・貯留)の技術の促進。国内のシェールガスの採掘の開始(ドイツは環境に悪いとして、CCSもシェールガスの採掘も禁止している)。 ■労働市場を再編するため、働ける人も貰える潤沢な市民金など、労働意欲を減退させる生活保護はやめる 提案はどれも現実的で有意義だ。そして、以前より自民党が主張していたにもかかわらず、連立政府の中で潰されてきた政策である。 実は、2017年9月の総選挙の後も、メルケル首相のCDUと、緑の党、自民党の3党連立政権がほぼ成立しそうになった時期があった。リントナー党首にとっては、与党に加われるまたとないチャンスであったが、最終的に11月19日の深夜、氏は連立交渉を終結させ、「与党に入って間違った政治をするよりも、政権に加わらないほうが良い」という名言を放って、自ら下野したという出来事があった。 当時、連立交渉での大きな争点の一つが、緑の党が脱原発に加えて、石炭火力まで段階的に廃止していくと主張していたことだったと言われる。リントナー氏は、原発を停止し、さらに石炭火力までなくしていけば産業が崩壊するとして譲らなかった(実際、今、そうなりつつある)。 さらに、難民政策についても、無制限に難民を受け入れていたCDUや緑の党とは違って、政治的迫害を受けている難民の人道的庇護と、産業界の求める労働力としての移民の導入は、区別して政策化するべきだと主張していた。これらが通っていれば、現在のドイツの惨状は、少し軽減されていたかもしれない。 ただ、リントナー氏は退き、CDUは社民党と組み、緑の党は政権に入り損ねた。そのため、緑の党のシンパである主要メディアが、「政治を放棄する政党は消え失せろ」とばかりに、一斉にリントナー氏を叩いた。 しかし、何が争点であったか、なぜ、リントナー氏が連立交渉を降りたかを、ちゃんと説明した主要メディアはほとんどなかった。当時、私はこの件を重視し、『そしてドイツは理想を見失った』(角川新書)で詳しく扱った。 主要メディアのリントナー嫌いは今も変わらず、今回のリントナー・ペーパーについても、公共メディアはその内容をほとんど報道しないまま、リントナー氏がサボタージュでも企てているように書いている。リントナー氏の主張を報じると、緑の党のダメさ加減がさらに鮮明に浮き出てしまうからだろう。状況は2017年当時とよく似ている。