トランプ氏勝利で抗議デモ 民主主義は機能不全なのか?
米大統領選が10月8日(現地時間)に行われ、共和党のトランプ候補が当選したというニュースが世界を駆け巡りました。 【写真】「反トランプ」に肩入れしすぎた?米メディア 自国しか見ない米国人 トランプ氏の失言・暴言だけでなく、その過去の女性スキャンダル、そしてクリントン氏の私用メール問題や健康不安など、今回の米国大統領選挙は史上まれにみるほどのスキャンダルとネガティブキャンペーンに彩られたものでした。さらに、トランプ氏の当選には、私自身を含めて「まさか」という感想を抱いた人が少なくなく、米国では選挙後も反トランプの抗議デモが頻発しています。 今回の米大統領選をみれば、民主主義が機能不全に陥っているという見方が生まれても不思議ではありません。今回の選挙から、民主主義の意味をあらためて考えてみます。(国際政治学者・六辻彰二)
もともと内包していた問題が表面化
まず、重要なことは、「民主主義が決して万能でない」ということです。 「多数者の意思を全体の意思として扱う」という民主主義の理念は、現代の西側先進国では「普遍的価値観」とみなされます。しかし、後の世に「世界の四聖人」のうちの二人に数えられるソクラテスやイエスが多数者の意見で処刑されたように、「多数者が常に正しいと限らない」ことは確かです。 そのため、欧米諸国でも近代にいたるまで、民主主義は「多数者の暴政」を生むものと警戒されていました。フランス革命で、「多数者の意思」が優先された結果、革命に反対する人々の生命や権利が簡単に否定されたことは、これを象徴します。1933年、当時世界で最も民主的といわれたワイマール憲法のもとにあったドイツでの総選挙でナチスが勝利したことも、民主主義が「多数者の暴政」を生んだ点で共通します。 これらに鑑みれば、今回の選挙で「二人の嫌われ者」が勝ち上がったこと自体、民主主義が抱える欠陥を示すといえます。つまり、今回の大統領選挙とその結果は、「民主主義がもともと内包している問題が表面化しただけ」ともいえるのです。