愛知が誇る新名物「めすうなぎ」とは? “未認知”覆す絶妙ネーミング
愛知県のウナギの競争力を高めようと、誕生したのが「めすうなぎ」。「マーケター・オブ・ザ・イヤー2024【地方編】」の優秀賞には、メスのウナギを世に出す活動の中心を担った、三河一色めすうなぎ研究会 会計理事の大石一史氏を選定した。ウナギに「オス」「メス」があると考える人はほぼいない。未認知の商品を広げるため、印象に残りやすい名前を付けた裏側に迫る。 【関連画像】通常のオスのうなぎと、メスのうなぎのサイズ比較(写真提供/三河一色めすうなぎ研究会) 今、あなたが食べようとしている「ウナギ」は、オスか、メスか? ウナギを購入、あるいは食すとき、性別を判断材料にするという新たなトレンドを生み出しそうなのが「めすうなぎ」だ。その名の通り、性別がメスのウナギである。愛知県西尾市一色町の「三河一色めすうなぎ研究会」が世に送り出そうとしている。 ウナギにもオスとメスは存在するが、実は「養殖のウナギの9割以上がオスになる」と大石氏は明かす。一般的にウナギの性別は生後2~3カ月で決まり、その後、市場に出回る。ウナギの性別を意識して食べる人はまずいないだろうし、知る術もないが、我々が食べてきたウナギの多くはオスなのだ。 めすうなぎを育てる技術により、消費者にとっては、「オスか、メスか」とウナギを選ぶ際の“新基準”ができた。生産者にとっては、めすうなぎの特性を生かして効率的に育成ができるという。このめすうなぎを世に出す活動の中心を担ったのが大石氏だ。 愛知県は、鹿児島県や宮崎県などと並び、養殖ウナギの生産が盛んな地域。中でも、西尾市の「一色うなぎ」が有名だ。一色うなぎは、冬から春にかけて、養殖池に稚魚のシラスウナギを入れ(池入れ)、半年から1年後に出荷する。養殖期間が比較的短いことから、1匹200~250gの「新仔(しんこ)」と呼ばれる若いウナギが大部分を占める。 オスは、大きく育てようと養殖期間を延ばすと、身が硬くなって品質が落ちる。秋口以降、餌をあまり食べなくなるためだ。 一方、昔からオスの中に、サイズが大きいメスが交じることは知られていた。 水産庁の資料によると、シラスウナギの国内採捕量は1963年に232トンあったものの、1980年代ごろから低水準となり、2023年は5.6トンまで落ち込んでいる。 採捕量が限られるシラスウナギを、サイズの大きいメスに育てられれば、先述の通り、消費者・生産者ともにメリットがある。天然資源の有効活用につながるのではないか――。 そのような課題を背景に、ウナギの養殖技術を研究する愛知県水産試験場は、熊本大学や北海道大学、共立製薬(東京・千代田)などと共同団体を創設。農林水産省が管轄する「イノベーション創出強化研究推進事業」に採択され、資金の援助を受けた上で、養殖ウナギをメスに育てる研究を18年度にスタートした。 研究から社会実装を目指した6年間の成果からは、驚くべき事実が判明した。 女性ホルモンと構造が似ている「大豆イソフラボン」を餌に混ぜると、9割以上のウナギがメスに育つと分かったのだ。オスと違い、メスは秋口以降も餌を食べ続けるため、300gを超えるサイズも難しくない。さらに身も軟らかくなるという。 21年11月、愛知県と一色うなぎ漁業協同組合などは共同で、この技術に関する特許を取得した。24年1月には、愛知県が330g以上のめすうなぎを「葵(あおい)うなぎ」としてブランド化している。