「ストレスが多い人」は「感染症」にかかりやすかった!最新研究が示す「ストレスと腸内細菌」の驚くべき関係
「お腹の調子が悪くて気分が落ち込む」という経験がある人は多いのではないだろうか。これは「脳腸相関」と呼ばれるメカニズムによるものだ。腸と脳は情報のやりとりをしてお互いの機能を調整するしくみがあり、いま世界中の研究者が注目する研究対象となっている。 【画像】「日本人はアメリカ人より発症率が高い」…「大腸がん」の「驚くべき事実」 腸内環境が乱れると不眠、うつ、発達障害、認知症、糖尿病、肥満、高血圧、免疫疾患や感染症の重症化……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきているという。いったいなぜか? 脳腸相関の最新研究を解説した『「腸と脳」の科学』から、その一部を紹介していこう。 *本記事は、『「腸と脳」の科学』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。
ストレスの多い環境で感染症が起こりやすいわけ
食生活だけでなく、ストレスによって腸内マイクロバイオータの組成が変化することも明らかになっています。 1970年代、アメリカ航空宇宙局(NASA)が宇宙ステーション(スカイラブ計画)を打ち上げましたが、それを運用するにあたり、宇宙飛行士に対して行われた研究があります。極めて狭い宇宙ステーションや宇宙船内に長時間閉じ込められるという、精神的にも肉体的にもストレスの高い状態で体にどのような変化が起こるのか、さまざまな角度から検討されたのです。 その中の一つに、宇宙飛行士の飛行訓練前後の糞便中の腸内マイクロバイオータを解析したものがあります。解析の結果、飛行訓練後にバクテロイデス門の細菌が増加する一方で、ファーミキューテス門の細菌が減少していました(※参考文献2-16)。 一方、ソ連(当時)においても宇宙飛行中の飛行士の腸内マイクロバイオータが解析されています。その結果、飛行訓練前から腸内マイクロバイオータの組成が変化していて、宇宙飛行中には、乳酸菌やビフィズス菌といった細菌が減少し、その代わりに大腸菌群が増加していたことが明らかになりました(※参考文献2-17)。 日本では、阪神・淡路大震災後の心理的にも身体的にもストレスの高い状態において、糞便中の腸内マイクロバイオータにカンジダ菌が増えることが報告されています(※参考文献2-18)。 カンジダ菌は、免疫機能が低下している人に生じる、日和見感染の原因となる菌として知られています。つまり、ストレスによって腸内マイクロバイオータの組成が変化し、健康な状態では感染しないような弱い病原性の微生物による感染症が起こりやすくなるのです。 このように、何らかのきっかけによって腸内細菌の総菌数が著しく減少したり、腸内マイクロバイオータの組成が変化したり、あるいは通常は見られない菌種が異常に増殖することがあるのです。これらをディスバイオシスと呼びます。