「ストレスが多い人」は「感染症」にかかりやすかった!最新研究が示す「ストレスと腸内細菌」の驚くべき関係
母親のストレスが次世代にまで影響を及ぼす
出産前後の期間(周産期)の母体に対するストレスが腸内マイクロバイオータにどのような変化を引き起こすのかについても解析が行われています。 アカゲザルの赤ちゃんを母親から離すと、分離3日後から赤ちゃんの腸内マイクロバイオータの組成や菌数に変化が見られ、とくに乳酸菌が減少することがわかりました。この乳酸菌の減少と相関して、アカゲザルの赤ちゃんは奇声を頻繁にあげるようになり、その後は活動性が低下し、意欲が低下するといったストレス行動を示すようになったのです(※参考文献2-19)。 また、妊娠したアカゲザルに6週間にわたり毎日10分間、大都市の騒音と同じような大音量の警報音を断続的に聞かせるというストレスを与えたところ、驚くべき結果が得られました。 生まれた赤ちゃんアカゲザルの糞便中の腸内マイクロバイオータを調べると、乳酸菌やビフィズス菌の細菌が有意に減少していたのです。 これらのことから、母体が受けたストレスは、次の世代の赤ちゃんの腸内マイクロバイオータにまで影響を及ぼすことがわかりました(※参考文献2-20)。 ラットに対しても同様な実験が行われ、妊娠中期から後期のラットに狭い場所に一定時間閉じ込めるストレスを与えると、生まれてきた赤ちゃんラットの腸内マイクロバイオータに占める乳酸菌の割合が減少することが報告されています(※参考文献2-21)。 このように、周産期のストレスは、母体だけでなく生まれてきた赤ちゃんの腸内マイクロバイオータにディスバイオシスを引き起こすことで、ストレスを次の世代に伝える可能性があるのです。
ストレスと腸内マイクロバイオータ
小腸には、病原性の細菌に素早く応答して、その細菌を殺菌するためのディフェンシンという物質を分泌する細胞(パネート細胞という)があります。 一方でこのディフェンシンは、腸内マイクロバイオータにはほとんど殺菌効果を示しません。そのため、ディフェンシンがパネート細胞から正しく分泌されないと、腸内マイクロバイオータのバランスが乱れ、炎症性腸疾患などの発症を引き起こすと考えられていました。 その後、このディフェンシンは、別の疾患にも関与する可能性が報告されました。具体的には、うつ病モデルマウスにストレスを与えると、パネート細胞から分泌されるディフェンシンの量が低下したのです。その結果、腸内で病原性の細菌が増え、腸内マイクロバイオータの組成が変化することがわかりました(※参考文献2-22)。 ストレスの情報を処理するのは脳であるため、こうしたストレスに関する研究成果から、脳腸相関に腸内マイクロバイオータが関与しているのではないかと考えられるようになってきたのです。 ※参考文献 2-16 Holdeman LV et al., Applied and Environmental Microbiology 31, 359-375, 1976. 2-17 Liézko NN et al., Nahrung 28, 599-605, 1984. 2-18 Takatsuka H et al., International Journal of Hematology 71, 273-277, 2000. 2-19 Bailey MT, Coe CL, Developmental Psychobiology 35, 146-155, 1999. 2-20 Bailey MT et al., Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition 38, 414-421,2004. 2-21 Golubeva AV et al., Psychoneuroendocrinology 60, 58-74, 2015. 2-22 Suzuki K et al., Scientific Reports 11, 9915, 2021. * * * 初回<なぜ「朝の駅」のトイレは混んでいるのか…「通勤途中」に決まって起こる腹痛の正体>を読む
坪井 貴司(東京大学大学院総合文化研究科教授)