柳葉敏郎、矛盾した気持ちを認めて前進「室井慎次がいなくなることはない」【インタビュー】
公開中の映画『室井慎次 敗れざる者』、11月15日公開の『室井慎次 生き続ける者』(11月8・9・10日に先行上映あり)で主人公・室井慎次を演じ、主演を務めた柳葉敏郎。「この話をいただいたときは断るつもりでいましたが、こうして作品を皆さんに観ていただいて、感謝しかないです」と、公の場で何度も打ち明けてきた。イメージを払拭したいのに、「柳葉の中から室井がいなくなることはない」とありのままの矛盾した気持ちを受け入れて、「視聴者をいい意味で裏切るような仕事をしていきたい」と前を向いた。 【動画】メイキング映像で構成されたスーパーティザー映像(6) ――『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012年9月7日公開)から12年ぶりに“踊るプロジェクト”を再始動させる話は、いつ頃に柳葉さんのもとに届いたのでしょうか? 【柳葉】去年の夏です。 ――その時、どのような感想を持ちましたか? 【柳葉】正直、嫌だなと思いました。 ――それはどうしてですか? 【柳葉】1997年の連続ドラマの時に、4話目くらいまで撮った段階で、プロデューサーの亀山氏に「殉職」を申し出たほど、室井という役がつまらなくて(笑)。台詞も「…」が多いし、自由に動けないし。現場でものすごい孤独を感じた。ただ、オンエアを観た妻が「かっこいいじゃん」と言ってくれたおかげで続けることができたんです。 そうしたら、「室井慎次」のイメージがついてしまって。「室井慎次みたいな…」というオファーも増え、ありがたいことだと思いつつも、いろいろな役をやってみたいという俳優としての楽しみが奪われてしまったようにも思えて、とても苦しみました。「室井慎次」のイメージを払拭したいとずっと思っていましたね。 ――最初は室井慎次の再演を断ったそうですね。 【柳葉】そうです。でも、(亀山氏から)脚本家の君塚氏からメールが送られてきたことが発端なんだと、その経緯を聞かされて。そのメールには室井慎次への熱い思いがつづられていて、それに心を打たれました。亀山氏も元々、自分自身を室井慎次に投影している部分があったので、2人の熱意に最終的には屈した形です(笑)。3度目に話し合った時、ようやくお互い納得がいき、出演を決めました。自分でも親友のように思っている室井慎次というキャラクターに対して、恩返しをしたいと思うようになりました。 ――出演するにあたって何か要望したことは? 【柳葉】室井は湾岸署があってこその室井なんです。それが大前提としてありました。ただ一つ、和久さん(演:いかりや長介)と当時の吉田副総監(演:神山繁)の会話を室井が立ち聞きしてしまったシーンがあって(2003年公開『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』)、2人の関係性がのちの青島と室井に発展したら面白いな、とは思っていました。 今回、亀山氏から、室井は秋田県出身で東北大学出身という異端の経歴があるので、「秋田に戻る」という設定はどうか、という提案がありました。それにはとても感謝しています。僕自身、今は秋田で生活しているので、地元の人たちへの恩返しになれば、という思いもありました。そこは、気持ちが一致しましたね。脚本を読んで、警察を辞めた室井慎次、いわば鎧を脱いだ室井を演じられることに新鮮さも覚えました。