トランプ氏が息巻く「追加関税」世界経済への影響は?BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏が徹底解説
――そうすると、今後4年間のアメリカ経済は単純にはいかなそうですね。 そうですね。ここで1つお話ししておかないといけないのは、実はちょっと発射台が高まっている可能性があるということなんですよ。 潜在成長率はだいたい2%ぐらいと思われていたのが、2023年、2024年に入ってあれほど高い金利が続いていたにもかかわらず、3%成長がずっと続いているんですね。 これを私はずっと言ってきたんですが、おそらく拡張的な財政政策を繰り返しているだけではなくて、生産性上昇率が高まっている可能性があるということなんですね。
■すぐにマイナス成長に陥る可能性は低い 理由はいくつかあるんですが、1つはコロナ禍でロックダウンが起こったとき、レイオフされた人たちが経済を再開して元の会社に戻ったかというと戻らずに、賃金の高い生産性の高い企業に転職したわけですね。 つまり経済全体で見ると、生産性の低いところから生産性の高い企業に人が移動したので、いわゆるリシャッフル効果で生産性が上がっている。あるいはコロナによる公衆衛生上の理由やその後の人手不足で自動化が進み、資本ストックが増える形で生産性が上がっている。あとはAIの影響なども出てきている。
だからトランプ氏が実行する政策、例えば関税引き上げなどが経済に悪影響を与えても、発射台が高いのでマイナス成長に陥るという話には、すぐにはならないのではないかと見ています。 ――アメリカは世界最大の経済大国ですので、世界経済に与える影響も大きい。トランプ氏の政策によって、世界経済が大幅にスローダウンするようなことにはならないという見立てですか。 トランプ氏はあくまでもディールのためだと言っているので、私は中国に関税を結果的にはかけないと思っています。
ただ、かけた場合どうなるかということですが、中国経済は大きく悪化しますよね。中国は財政政策で対応しようとしますが、それでも景気が大きく悪化する。 そうなると、先ほども少しお話ししましたが、日本や中国の周りにある東アジアの国々は、中国向けの輸出もそうとう多いですから、それなりのダメージを受ける。ヨーロッパも中国向けの輸出が多い。だから中国の関税がどのくらいになるかというのが焦点の1つです。 もう1つは、日本やヨーロッパにも関税をかけるとトランプ氏が言っているんですが、おそらく関税をかけるという表明をしたとたんに、そのこと自体がドル高を引き起こします。ですから、日本が仮に10%の関税をかけられてアメリカ向けの輸出が大変になるかというと、一方で10%ぐらいのドル高などでオフセットされるので、その心配はない。