北陸新幹線の延伸ルートでちゃぶ台返し?終わったはずの「米原ルート案」が再燃したワケ
● 米原ルート案が 再燃した理由 米原ルート案は、なぜ今年に入って「再燃」しているのか。JR西日本の長谷川一明社長は5月24日の記者会見で、「米原ルートは着工の遅れによる、もどかしさから出た表現」と述べているが、恐らくこれが正解だろう。 切り札のフリーゲージトレインは開発の難航で2018年に導入が断念されており、不便な敦賀乗り換えが長期化することへの不満と、小浜・京都ルートの建設に相当の時間を要するとの不安から、早期開業が見込まれるルートを選択せよというのが米原派だ。 問題は米原駅の乗り換えだが、前出の提言書に「リニア中央新幹線の大阪延伸後、東海道新幹線の米原~新大阪間の過密ダイヤが緩和されるため、乗り入れが可能」とあるように、2016年のルート決定時とは状況が変わっており、乗り入れは可能との立場を取っている。 これに対して国交省は6月19日、「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)のルートに関する議論について」として、小浜・京都ルートの検討経緯を改めて確認するとともに、米原ルートの問題点を以下のように挙げた。 <東海道新幹線乗り入れ> ・東海道新幹線の容量が引き続き逼迫(ひっぱく)している ・運行管理システムが異なる ・脱線逸脱防止対策の方法が異なる <利便性> ・米原で引き続き乗り換えが継続する ・所要時間、運賃・料金が小浜京都ルートと比較して増加 また「福井県、滋賀県、JR西日本が小浜・京都ルートによる早期整備を求めていること」、「2019年から行ってきた環境アセスメントを改めて行う必要があること」を指摘。東海道新幹線乗り入れは技術的に困難である、乗り入れられなければ米原乗り換えは解消できない、米原乗り換えでは整備効果が小さく、誰も求めていないという理屈だ。
● 米原ルートに再変更するには 政治的プロセスと技術的検証が必要 一方、提言書は「財政支援による運転保安投資を行えば直通運転が可能になる」として金で解決できる問題であり、「想定投資コストも小浜・京都ルートにかかる巨額の総工費に比すれば、ごく一部にすぎない」と主張している。 本稿ではルートの優劣については触れないが、もし米原ルートに再変更されるとしたら、「政治的プロセス」と「技術的検証」の両方を経る必要があるだろう。政治的プロセスとは言い換えれば政治的な正当性だが、現在のところルート決定の根拠は自民党と公明党で構成されるPTの結論でしかない。 低支持率にあえぐ岸田文雄内閣が解散に踏み切り、万が一、与党が過半数割れすれば、日本維新の会が参加する連立政権が成立するだろう。そうなれば彼らの参加する新たな与党PTが、議論をひっくり返すことは不可能ではない。不可能ではないが、現実性はかなり低いと言わざるを得ない。 むしろ突破口になるとしたら、国交省の「環境アセスメントを改めて行う必要がある」との主張ではないか。建設に伴う問題を検証するのがアセスであり、アセスに着手したから変えられないというのは本末転倒だ。 残念ながら現在のアセスは着工の前段階として形骸化しているが、詳細な調査をもとに小浜・京都ルートの検証を尽くした結果、米原ルートが妥当となれば政治的な正当性を得られるだろう。だがそれは、小浜・京都ルートがグズグズしているうちに勝負を決めたい米原派にとって分が悪い。 より難しいのは技術面だ。システムのすり合わせは、当事者であるJR西日本とJR東海の協力が不可欠だが、米原ルートに後ろ向きの両社が積極的に協力するとは思えない。何事も金で解決できないことはないが、米原ルート成立の前提である東海道新幹線乗り入れの可否が分からない以上、具体的な議論に進めない。 筆者の感想としては、政治・技術の両面から小浜・京都ルートをひっくり返すほどの材料は出てこないと思われる。そもそも着工5条件に「営業主体としてのJRの同意」がある以上、JR西日本が首を縦に振らなければ米原ルートの着工はできない。投資効果のルールも何かしらの特例を設けてクリアするのだろう。 だが問題はその先だ。小浜・京都ルートの工事は間違いなく難航する。2025年に着工し、工事が順調に進んだとしても2040年の開業だが、着工が5年、工期が5年延びれば2050年になってしまう。 工期が伸びれば事業費も膨張する。人件費・物価の高騰で、予算が不足する公算も大だ。整備新幹線は公共事業である。どちらのルートを取るにせよ、長期的なプロジェクトを、誰の責任で、どのようにチェックしながら進めるかは、明確化する必要がある。 そして、未来がどうあるべきかの議論も重要だが、所要時間はほとんど変わらないのに運賃・特急料金は値上がり、乗り換えを強いられている福井駅の利用者など、現実の課題にも目を向けてもらいたい。
枝久保達也