【全文】BBC日本語版開設(下)「ニュースの信頼性の源泉は組織か個人か」
社員契約の人たちは挑発的な言い方すると「2軍」(田端)
田端:僕が書いた、「組織か? 個人か?」っていうのもそれに近いんですけども、結局、ある種のさっき言ったので言うと、すし屋ふうに言うと、この人が進めるネタだったら、よく分かんない、げてものっぽく見えるけど食べてみようか、きっとおいしいとか体にいいに違いないしって思えるには、信頼関係がないと駄目なんですよね。そんな偏食が、好き嫌いが治らないと。でもその信頼ってどこにひも付くのかっていうと、人に対してひも付くのか組織に対してひも付くのかってのが本質的な分かれ道だと思います。 例えば、組織に対して信頼がひも付いてるみたいなところでも、チェーンストアってだいたいそうなってまして、初めて行った土地でも、僕なんかはたぶんセブン-イレブンがあれば、おそらくあるレベルのお弁当があったり、品切れがなかったりっていうことは間違いないだろうと思って、知らないところのセブン-イレブンに入るわけなんですね。そのフランチャイズのオーナーを個人的に1ミリも信頼してなくても、セブン-イレブンのロゴが付いてるコンビニだったらある期待値は満たしてくれるよねと。 ただ、基本的には大量生産のコモディティ化されたプロダクトと違って、ニュースっていうのはもう少し作り手の属人的な能力なりっていうところが占める割合がもっと大きいものです。そうしてくると、別にわれわれも例えばネット業界の中でも、例えば日経新聞さんの中にもいろいろな記者がいらっしゃいますけども、私たちの業界ですると、例えば井上さんっていう有名な記者がいて、彼の書くものはもっと深いよねとか、どっちかというとそこはもう、日経新聞という看板じゃなくて井上さんって個人にひも付いてたりするわけです。 別にそれは、まさしく津田さんもそうかもしれないし、そういった形で今、インディペンデントに個人の本当、ネームバリューで勝負できるような人たちが出てきている中で、逆に言うとあえて社員契約でやってる人たちは、挑発的な言い方すると、2軍かもしれない。中で、だからそれを看板で、要はラベルを貼ってやってるっていうのは、2級品のおまとめ販売みたいな、バルクセールみたいなことと言えなくもないかもしれない。本当に超一流だったらなぜインディペンデントになれるはずなのにならないのか、という部分に対してどうなんだっていうのが、今、本質的な論点かと思います。 で、ニュースが、僕はある種のブランドビジネスだと思うんですけども、なぜか。車は乗ったら分かるんですよ。テストドライブして、ハンドル握ったりドアに手を掛けた瞬間に、この車がっていうのは本質的に、それも誤解かもしれないけど、消費者は見抜くんですけども、ほとんどの、特に国際ニュースなんかに関して、一般のオーディエンスはその真贋を自分で見極める目を持ちません。 あるいは、なんでもいいんです。STAP細胞のものでもいいんですけども、ほとんどの日本人はSTAP細胞が誤報か真実だったかって自分自身で確かめるすべもなかったと思います。あれはそのときみんなが誤解したまま誰も言わなかったら別に、ほとんどの日本人はそのまま暮らしてたと思います。別にそれであんまり不都合もないわけですよ、ほとんどの人にとって。なんだけど、それはそれでそのままじゃ駄目なんですけども、そういうときに結局、何を信じるんですかと。フォルクスワーゲンみたいな話もありますけども、っていうときにはやっぱ、ある程度看板が残るんでしょうが、その看板と組織の間のせめぎ合いみたいなところとか、あるいは、例えばSmartNewsさんもたぶんLINE NEWSもあれなんですけど、そこでリンクして配信してキュレートしてるものに関して、どの程度まで責任を負うべきなのか、追わないといけないのか、みたいなことに関しては、それはおそらくそこからくるんだったらとんでもない誤報ってまあまあ、ないよね、とか、結果的にもし交じっちゃったときの責任みたいなものに関しては、なんか悩ましく思ってて。まったくないとは全然言い切るつもりはなくて、ただ、すごく悩ましい問題だなと。 常にそこは、結局、別にSmartNewsさんでもLINEでもいいしBBCでもいいんですけど、例えばロゴとか会社組織とか法人とかっていうのは、それ自体は抽象的な概念じゃないですか。このロゴ自体がなんか正義を働くわけじゃなくて、結局そこにいるのは人間なので、生身の人間がどんな人がいてどんな思いでやってるのかっていうことなんでしょうが、それは正論すぎて、新しい見知らぬコンビニに入ったときに、フランチャイズオーナーの顔色見て、この人真面目に仕事してるから、とか絶対、いちいち無理です、日常生活の中で。 という、なんかすごく悩ましい問題があって、結局あなたはブランドのロゴを信じますか。本当に自分のためにつくってくれてる人、働いてる人の顔を見て本当に判断しますかっていうのがなんか、本質的な論点かなと思ってます。 加藤:ありがとうございます。そういう信頼をいかに勝ち得る、勝ち取るかが。 田端:信頼の源泉って何かなっていうところなんですよね。 加藤:そうです、それがブランドなのか、記者個人なのかっていう。BBCの組織は特派員とかバイライン、署名の記事をとても大事にしてますし、特派員の名前を前面に出すことをとても重視しているので、そこで個人ブランドをとても重視しているんですけども、そういう方向性っていうのは日本でももっと、どうでしょうね。 田端:いや、だからそれは基本的には個人の方向に、力学としては流れていくと思うんですけども、何からないまでそっちに行くかっていったらおのずから無理な範囲はあるとは思います。