ものづくりで“情熱”を伝えたい。ゼンハイザーのヘッドホンを「あえて手作業」で組み立て続けるわけ
ゼンハイザーのタラモア工場(アイルランド)は、これまで30年以上にわたり、同社のオーディオファイル向け製品を作ってきた。初代からHD 600シリーズを作り続けてきたほか、2022年にはHD 800やIE 900などのハイエンドモデルについても、ドイツからタラモアに集約された。 【画像】工場内で製造されるトランスデューサーやその部品 全3回となる本シリーズ。第1回では同社のトランスデューサーが “全自動” で作られていく様子、そして第2回ではヘッドホンやイヤホンが “手作業” で作られていく様子をお伝えした。また、HD 600シリーズの組み立てを体験できたので、その様子も合わせてレポートした。 最終回となる本記事では、タラモア工場のトップで30年の経験をもつ、プラントマネージャーのPat Fulton(パット フルトン)氏にインタビューを実施。手作業へのこだわりや工場集約による変化などを、一問一答形式でお伝えしていく。 なお、タラモア工場で作られているのは、ゼンハイザーのオーディオファイル向け製品。具体的には、ヘッドホン「HD 800シリーズ」「HD 600シリーズ」、イヤホン「IE 900」「IE 600」、ヘッドホンアンプ「HDV 820」、そして1000万円級のエレクトロスタティック型ヘッドホンシステム「HE 1」(※日本未発売)となる。 熟練の技術でハンドメイド。あえて手作業を続けるわけ ――タラモア工場の使命や目標について教えて下さい。また、どれくらいのスタッフが製造に携わっているのでしょうか 我々は「毎日改善する(Improve everyday)」という、とてもシンプルなスローガンを掲げています。全従業員が一丸となり、日々改善しようとしているのであれば、より良いプロセス、より良い製品、より良い方法を見つける絶好のチャンスになると考えています。 ここには100人以上の従業員がいます。たとえ小さな改善であっても、それが積み重なって大きな成果を生みます。だから改善は、我々にとっては非常に重要なことだと考えています。 ――オーディオファイル製品の製造にあたり、主に品質面を保つために、こだわってきた点などありましたら教えて下さい ご存知のとおり、品質は非常に重要であり、それに多くの時間を費やしています。最高の品質をお届けするため、最良のプロセスに取り組むことに多くの時間を費やしています。そして、全ての製品は100%テストしています。 ――タラモア工場では、あえて手作業による組み立てを続けていますが、それはなぜでしょうか 我々がタラモア工場でこだわっているのは、テクノロジーと手作業によるアプローチの両方を、うまくミックスさせるということです。 人の手が加わることによって、起こったり伝わったりする想いがあるはずです。そして、ゼンハイザー製品を使うユーザーたちが、ものづくりに注ぐプライドと情熱を少しでも感じてくれることを願っています。我々は、それがとても特別なことだと思っています。 この工場の従業員は、自分たちの仕事に大きなプライドを持っていて、常にベストを尽くしたいと思っています。ですから、その特別な想いが製品に反映されることを願っています。そのために、手作業にこだわっているのです。 ――ハンドメイドでトランスデューサーを製造するには、何か特別なトレーニングが必要で、どのくらい時間がかかりますか? はい、確かに特別なトレーニングが必要です。トランスデューサーを自分で手作りできるようになるまでに、作業内容によっては、かなりの時間がかかってしまいます。また、手先の器用さも必要です。 そのために、非常に専門的なトレーニングプログラムを用意しています。このトレーニングを通して技術を学ぶことによって、時間とともに従業員が成長し、スキルを高めていけるのです。 買収によって体制変化、工場を1か所に集約したメリット 買収によって体制変化、工場を1か所に集約したメリット ――2022年に生産拠点をタラモア工場に集約したと聞きました。この場所は1991年からの歴史的な生産拠点ですが、集約にともない、どのような変化やメリットがありましたか 手作業による組み立てと、高度なオートメーション(自動化)を1か所で行うのは、この業界では珍しいことです。トランスデューサーのマッチングがしっかり行えること、そして同時にクオリティのチェックについても、集約することでより効率的になりました。 タラモア工場で作られたパーツは同じ工場内で組み立てられ、機械によるオートメーションと職人技による手作業の組み立てをうまく融合させています。「ひとつの屋根の下」というのは非常に有益であり、我々にとって大きなアドバンテージとなっています。 ――Sonovaによるゼンハイザーのコンシューマー部門の買収により、どのような変化がありましたか。良くなった点があれば合わせて教えて下さい 我々は常にユーザーのことを考え、「改善」するというマインドを持ち続けてきました。だから長年にわたり、最もスマートで効率的な方法を常に探してきました。常に高い品質を保つこと、そして製造プロセスを向上させていくことに注力してきたのです。 これは、最高の体験を提供できるような製品を作るためです。そして、さらに改善を進めていきます。 ――ゼンハイザーにはエントリーからプレミアムまで多くの製品があります。プレミアム製品とそれ以外では、生産ラインにどのような違いがありますか 我々は、すべての製品に対して細かい注意を払っています。すべてのプロセスに同じ考え方、同じ姿勢、同じような配慮で取り組んでいます。 生産の過程において、それぞれの製品にとって、最も効率的で最高の品質をもたらすプロセスを目指しています。 ――製品を通して、日本のユーザーに伝えたいことがあったら教えて下さい ユーザーの方々が、ゼンハイザー製品によってオーディオ体験を楽んでくれることを願っています。そして製品を使用するときは、我々が毎日すべての製品に注いでいる、プライドと情熱を感じていただけると嬉しいです。 ◇ 記者は今回、ゼンハイザーが行ったメディア/インフルエンサー向けのツアーに参加した。同社はこのツアーの目的を、「オーディオ好きな方々に来てもらい、我々の製品がどのように作られているか、そしてどのような所にこだわっているか、というのを実際に見て学んでほしかった」と話す。 この記事を通して、ゼンハイザーの製品がどのように作られているのか、記者の体験が少しでも伝わっていたら幸いだ。記者もゼンハイザーファンのひとりだが、今まで以上に同社製品に愛着を持てるようになった。 ちなみにツアーでは日本からの参加者として、YouTuber セゴリータ三世氏、YouTuber ららまろ氏と行動をともにした。動画ではそれぞれの視点から工場の様子などがレポートされているので、興味のある方はチェックされたい。 ■セゴリータ三世氏 ■ららまろ氏
編集部:平山洸太