味の素AGF、インスタントコーヒーの技術革新と価値伝達に注力 「一杯十数円の価値を再度お届けしたい」島本憲仁社長が意欲
味の素AGFの島本憲仁社長は、8月30日開催された社長就任挨拶で、コーヒー強化の姿勢を鮮明にし、中でもインスタントコーヒーの技術革新と価値伝達に注力していく考えを明らかにした。 「コーヒー生豆の歴史的高値の状況は今後も続くと予想するが、こんな状況だからこそコーヒーが必要。入社以来33年間、コーヒーと向き合い、私はコーヒー屋だと思っている」と語る。 島本社長は6月26日から現職。同社初の生え抜き社員の社長で、祖業であるコーヒーへの思い入れが強い。 「入社したときは“コーヒーを売る会社”だと思っていたが、だんだん私自身も変わってきて“コーヒーを飲んでいただく時間を提供する会社”になってきている」と述べ、このような所感を包含するコーポレートスローガン「いつでも、ふぅ。AGF」を重要視する。
「地震や台風などの災害対策などいろいろなことを考えなければいけない時代に“ふぅ”と一息つける機会を提供できるのは素晴らしいこと。嗜好飲料の価値を高めつつ、生活者一人一人に寄り添いながら2030年に味の素グループで最も心の健康に貢献できる企業を目指していく」と意欲をのぞかせる。 この考えのもと、主力のスティックなどに引き続き注力しつつ島本社長が注目するのはインスタントコーヒー。 「当社は一粒のコーヒー豆からコーヒー成分を最大限に引き出す技術を用いている。レギュラーコーヒーは一杯約10グラム使うが、インスタントコーヒーはその半分以下の豆の使用量で一杯を提供できる」とみている。 さらなる技術革新に取り組みつつ、創成期と比べて格段に進化した現在のインスタントコーヒーの価値伝達に注力していく。 社長就任に先立ち5月22日に放映開始した榮倉奈々さん起用のCMもその一環。今後も放映を継続していく。 CMでは「ブレンディ」と「ちょっと贅沢な珈琲店」のインスタントコーヒーを訴求。“めっちゃお得でおいしい”“毎日お得なこの一杯”のナレーションを入れてコスパとタイパをあわせ持つ魅力を描いている。 CM投下にあたっては、インスタントコーヒーの、生活者が認識している価格(20円程度・AGF調べ)と実勢価格(10円前後・同)との乖離に着目した。 「一杯十数円の価値を再度お届けしたい。数秒でつくれて気軽に飲める。飲んでみると“こんなにおいしい”と思っていただけるはず。濃度も調整でき、カスタマイズし放題。ゴミも出ない」と訴求する。 嗜好品全般ではコーポレートスローガンのもとコト消費や情緒的価値に着目する。 「“ふぅ”と一息つける時間や人と人とのつながりのきっかけとなることを提供できる会社であることに自信を持って社会に貢献していきたいというのが、私の大きな思い」との考えを明らかにする。 人と人とのつながりのきっかけづくりの好例には、スティックなどの個包装にデザインされるメッセージを挙げる。 今後は、メッセージの施策を拡充しつつ、ギフトに開拓余地を見込む。 「もともとコーヒーギフトは“コーヒーギフトはAGF♪”と我々コーポレートブランドの一番の強みだった。中元・歳暮に少し依存し続けてきたが、実際にはいろいろなところで贈答がなされている。人と人との関係が深くなる要素が嗜好飲料にはあり、今もやっているが、このようなことを掘り下げていきたい」と力を込める。 島本社長の信条は“腹落ちしてから動く”。ボトムアップ経営を志向する。 「若い時から上から言われたことをそのままやるのを嫌っている。そのため今はなるべく上から落とさないようにしている」という。 社長室は、社長就任後に廃止した。自由な服装での出社や“ふぅ。ケーション”(自由闊達なコミュニケーション)を率先垂範している。 「フリーアドレスにして毎週フロアを変えている。最初はギョとされたが、今は同化し、フロアからさまざまな情報が入ってくる。他の役員もフロアを変えるようになり、いい方向に向かっている。スケジュールは全社員に公開しており、オープンでフラットにしていくことをより強めている」と説明する。