侍Jを翻弄した44歳左腕、今春実行した5か月の“臨時休業” 少年野球コーチからの復活「自信はあったよ」
プレミア12でベスト9、米国の44歳左腕リッチ・ヒルが実行した異例の計画
子どもの成長を見逃したくない。野球の国際大会「ラグザス presents 第3回 WBSC プレミア12」で日本代表「侍ジャパン」の前に立ちはだかった米国のリッチ・ヒル投手は今春、異例のライフプランを実行した。44歳の今季、米大リーグ3球団からのオファーを断り、息子の少年野球チームでコーチに就任。一時、現役を退きながらも8月にメジャー復帰を果たすという異色の計画を実現させた。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大) 【動画】プレミア12で「メジャーリーグ級だ」 米国打者をねじ伏せたNPB右腕の一球 真っ直ぐは140キロ台前半。それでも日本打線が次々と振り遅れた。21日に東京ドームで行われたスーパーラウンド初戦。米国の最年長44歳のヒルは先発マウンドに立ち、緩急自在の投球で打者を翻弄し続けた。「“スローイング”じゃなくて“ピッチング”なんだ。スピードを変え、タイミングを外す。それがピッチングだ」。4回1安打5奪三振で無失点。試合は1-9で敗れたが、球速が全てではないと証明した。 ヒルは1980年3月、ボストン生まれ。日本流の学年に当てはめれば、松坂大輔氏の1つ上にあたる。ミシガン大から2002年ドラフト4巡目でカブスに入団。2005年にメジャーデビューを果たすと、13球団を渡り歩き、2桁勝利を4度記録した。積み重ねた白星は90。メジャー20季目となる今季も3球団からオファーを受けていたが、全て固辞した。12歳の息子ブライスくんとの時間を過ごすための決断だった。 遠征が多いメジャーリーグ。「これまで息子の試合をあまりに多く見逃してしまった」。時計の針を戻すことはできない。せめて、リトルリーグ最終年を迎える今年だけでも、息子の成長をしっかり見届けたい。とはいえ、まだ引退するつもりもない。昨オフ考え出したのが、今季の開幕時はどことも契約せず、息子のシーズンが終わった夏以降に復帰を目指すという異例の計画だった。 約5か月間、息子が所属するマサチューセッツ州のリトルリーグチームでコーチを務めた。「子どもたちがどんな体験をしているのか理解したかったんだ。彼らがどれだけ野球を愛し、私たちと同じように感情の浮き沈みを経ているか、私たちは時に忘れてしまうからね。とても謙虚な気持ちにさせられる経験だったよ」。10歳から12歳の少年少女を指導していると、ハッと気付くことがあった。