ブルーバックス伝説の名著『統計でウソをつく法』100刷突破!
「第2章 “平均”でだます法」より
あなたが俗物ではないということは、私にはよくわかっているし、私が不動産屋でないこともまた確かなのであるが、ここでは、お互いに俗物と不動産屋としておこう。 私は、あなたを品定めしてから苦労して計算し、この辺の人たちの年間の平均所得がだいたい1万5000ドルであるという。多分、これであなたはここに住んでみたいという気になるだろう。 とにかく、あなたはこの土地を手にいれるが、この立派な数字が心にこびりついて離れない。実はこの時のために、あなたがちょっとばかり俗物であるということにしておいたわけなのだが、友達に住所を教える時に、あなたはしょっちゅうそのことを口走るということになる。 さて、1年以上たってから、われわれはまた顔をあわせる。私は納税者委員会の一員であって、税率や評価額やバス料金などの引き下げの請願書を配布しているところである。 私の訴えは結局、「この辺に住むわれわれの年間平均所得はたったの3500ドルであって、値上げにはついていけない」という趣旨のものである。あなたもおそらくこのことについては、私たちに賛成するに違いない──あなたは俗物であるばかりか、ケチでもあるのだから──。 しかし、あの3500ドルというはした金のことを聞いてはおどろかざるをえないであろう。 ところで、それなら私はウソをついたのだろうか? そして、どちらの数字がウソなのだろうか? この場合、どちらの数字がウソかを指摘することはできないのであって、これが統計を使ってウソをつく極意なのだ。 これらの数字は両方とも間違いのない平均値なのであり、ちゃんとした計算方法によってえられたものである。両方とも同じ人数と同じ所得のデータを代表しているのである。 とはいっても、このうちどちらか一方が真っ赤なウソと同じように人を誤解させるに違いないということもまた、明らかなのである。 この場合のトリックは、“平均”という言葉の意味が、非常にルーズなのを利用して、種類の異なった平均を使いわけたことである。 このトリックはよく使われる。知らずに使われることもあるが、大衆の意見を左右したり、広告をとりたいと思う時に、しばしば意図して使われることが多い。 ある数字が平均値であると聞いても、それがどういった種類の平均値──いわゆる平均値(算術平均)、中央値(中位数)、最頻値(並み数)のうちのどれ──であるかがわからなければ、あまり意味がないのだ。
ブルーバックス編集部(科学シリーズ)