「ここでは自分らしく年を重ねていける」――ドイツで生まれたLGBTQ向け高齢者施設
住居そのものについても、こう指摘する。 「以前に住んでいた家よりも格段に小さくなったので、持ち物をかなり処分することになりました。でも、エレベーターがあり、個人宅の部屋も建物全体もバリアフリーですから安心です。この場所は建築的な視点から見ても、単身世帯が増えているこれからの社会のモデルとなるのではないでしょうか」 2018年の統計によるとドイツに暮らす人の5人に1人が単身世帯で、この数は1991年から右肩上がりだ。ベルリンなどの大都市では、全世帯における単身世帯の割合が半数を超える。コンパクトなシングル・シニア向けの住宅は、今後より一層需要が増えることが予想されている。
一番の理想は、専門の場所をつくる必要がなくなること
オープンから9年を経た今も、「レーベンスオルト・フィールファルト・イン・シャルロッテンブルク」は新しいプロジェクトに挑戦中だ。一般の施設で働く介護スタッフへの研修や、既存の施設にLGBTQ対応を考えたケアを導入するための、ダイバーシティー(多様性)チェックのシステムをスタートしたのだ。デ・フロート氏はこう説明する。 「今後はより多くの介護施設や介護士の学校で、LGBTQの介護についての研修プログラムやカリキュラムを組み込んでもらい、理解を深めるのが目標です。ほとんど全ての介護施設がLGBTQのニーズやライフスタイルを考慮していません。そこで私たちは、ドイツ全土の高齢者介護施設、外来看護サービス、ホスピス、デイケア、および同様の施設などを対象に、ダイバーシティーをチェックし、コンサルティングを行うことにしました」 専用の住宅プロジェクトを進めていくだけではとても足りない。既存の場所の意識を変えていこうと考えている。ガイザー氏も多様なケアの必要性を語る。 「個人的には、ここでの生活は快適そのものです。しかし一番の理想は、さまざまな差別を気にせず、誰もが一般的な施設に入ることが可能になり、こうした専門の場所をつくる必要がなくなることです。全ての人が同一の介護を受けるのが普通なのではなく、肌の色やセクシュアリティーなど違いを持つ人たちがいるのが普通で、多様なケアをしてもらえる社会になってほしい。その実現に向かって、いま私たちの社会は前進している最中だと思います」