「ここでは自分らしく年を重ねていける」――ドイツで生まれたLGBTQ向け高齢者施設
デ・フロート氏はこう付け加える。 「こうした背景もあり、高齢の同性愛者は家族との縁が薄く、心を開ける友人も少ない。現在のように、パートナーと結婚することもできませんでした。一般的な高齢者よりも孤立している割合が高かったのです」 2人が勤めるカウンセリングセンターには、2000年代に入ってから、一般の高齢者施設に入りたくないという声が多く寄せられるようになっていた。そこで、この新たな住宅プロジェクトが動き出したのである。
目指したのは「高齢者のみ」「男性同性愛者のみ」のように切り分ける施設ではなく、多様な人たちが一つ屋根の下で暮らし、交流できる多世代住宅だった。デ・フロート氏は言う。 「年齢も性別も、サポートが必要な人も必要じゃない人も、さまざまな人が一緒に暮らせる場所。それは社会と同じ構造です」 一人暮らしの高齢者が住みやすく、バリアフリーで家賃も安い住宅にした。カウンセリングセンターに訪れる人の中には生活が困窮している人も多くいたため、生活保護受給者が入れる家賃の住居も用意した。
住宅だけでなく、住人以外も使える共用スペースとして、1階にカフェ、イベントスペースや図書館を設けた。2階にカウンセリングセンターも入っている。 イベントスペースでは以前に、ファッションショーや演劇が催され、メディアでも取り上げられた。共用の庭もあり、コロナ禍の今は大人数で集まることが難しくなっているものの、バーベキューやパーティーに使用することもできる。 ガイザー氏は、入居者の交流を重視している。LGBTQの作家を招待して、イベントスペースでオープンな朗読会を企画したりもしてきた。住人に限らず、シニアの男性同性愛者なら誰でも立ち寄ることができるイベントを開催することで、この場所の存在を知ってもらい、交流を広げていきたいそうだ。 「こうした社会的な接触は、老後の生活のクオリティーを約束してくれます。コロナ禍においては、隣人との交流やサポートの大切さを実感していますね」