「ここでは自分らしく年を重ねていける」――ドイツで生まれたLGBTQ向け高齢者施設
LGBTQの入居者に対するケアと心構えの研修
多世代住宅のワンフロアが、24時間、介護スタッフが常駐するシェアルームになっている。 「介護が必要になった場合でも、この場所を出ていかなくてもいい。私をはじめ、ここに住む住民に大きな安心感を与えています」 そう話すデ・フロート氏が、シェアルームを案内してくれた。 シェアルームに関しては、入居者をLGBTQに限定している。介護スタッフはほぼ全員男性同性愛者だ。スタッフは事前に2階のカウンセリングセンターで、LGBTQの入居者に対するケアと心構えの研修を受けている。 まず「LGBTQとは?」「あなたはどう向き合うのか?」というテーマから始まり、LGBTQ差別の歴史や権利を獲得するまでの経緯、現在の関連する法律や法的な立場、人口における割合などの基礎知識を得る。 その後、介護を行ううえでの注意点として、インターセックスやトランスジェンダーの人たちのホルモンケア、身体的な違いなどについて学ぶ。リクエストが増え、最近ではほかの一般的な介護施設や介護学校の生徒も対象に加えて、研修を行っているそうだ。 シェアルームの入居者に住み心地を聞いてみると、「自分たちが同性愛者であることをいちいち説明しなくて済むのが一番のメリットだ」と多くの人が声をそろえた。入浴や排泄介助といったケアをしてもらう相手に、前もって心構えや知識があるのはとても安心できるという。
アイデアの段階から関わり、この施設に10年近く住んでいるガイザー氏自身は、どんな感想を持っているのだろうか。 「私が生まれた76年前とは、 LGBTQを取り巻く環境は大きく変わっています。私自身は、20代半ばでカミングアウトして以来、同性愛者であることを隠して生きてきたことはありませんが、隣人たちが『若い頃は自分を偽って生きてきたけれど、ここでは自分らしく年を重ねていける』と嬉しそうに暮らす様子を見ると、幸せな気持ちになりますね」 「いろいろな人が一つ屋根の下で暮らす。そこで生まれる交流が、私の生活を生きがいのあるエキサイティングなものにしてくれます。私が若い頃は、年配の男性同性愛者が『性的な興味を向けられているのでは?』といった偏見の目を向けられることなく、気軽に男性とコンタクトをとるなんて、想像もできないことでした。こうやって皆が友好的なよき隣人として暮らせる場所は、もうそれだけですばらしい贈り物なのですよ」