「ここでは自分らしく年を重ねていける」――ドイツで生まれたLGBTQ向け高齢者施設
「若い頃は自分を偽って生きてきたけれど、ここでは自分らしく年を重ねていける」。ドイツの首都ベルリンに、ヨーロッパ初のLGBTQ向け高齢者施設を併設する多世代住宅がある。「レーベンスオルト・フィールファルト(色とりどりの生きる場所)・イン・シャルロッテンブルク」。そう名付けられたこの場所には、世界中から見学者が訪れる。どんな経緯でつくられ、どのように運営されているのか。(取材・文:河内秀子/構成:殿井悠子/撮影:Gianni Plescia/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
施設内でカミングアウトしたくない
多世代住宅「レーベンスオルト・フィールファルト・イン・シャルロッテンブルク」がオープンしたのは、2012年。住民の半数が55歳以上の男性同性愛者、残りの半分は25~35歳の男性同性愛者と女性で、LGBTQ限定の24時間介護ケア付きシェアルームがある。 運営機関は、ベルリンの男性同性愛者のためのカウンセリングセンター「同性愛者カウンセリングセンター・ベルリン」。このセンターの代表を務めるマルセル・デ・フロート氏と、施設の創立メンバーで自身も入居者であるベルント・ガイザー氏に話を聞いた。 ガイザー氏はもともと、このカウンセリングセンターが実施するシニアの男性同性愛者に向けた訪問サービスを手伝っていた。サービスに従事するなかで気になることがあったという。 「高齢者施設や介護施設に入居している人の中に、施設内で自分がゲイだとカミングアウトしたくないという人が多かったのです。人に知られるのを恐れるあまりに、私たちと接触するのをやめ、カルテを削除してほしいという人もいました」 ドイツには1994年まで、刑法175条という男性同士の同性愛行為を処罰する法律が存在した。19世紀に作られたこの法律はナチス政権下でさらに厳しくなり、多くの同性愛者が強制収容所に送られて命を落とした。西ドイツでは69年までナチス時代の条項が有効で、その後改正されたものの、撤廃に至ったのは1994年のことだった。 「西ドイツの建国から1994年までの間に175条により罰せられ、刑務所に入れられた人は、約6万人といわれています。この時代に育った人たちは、同性愛者であることを隠し、できる限り目立たない生き方をすることが体に染みついているのです」