担当スカウトが語る広島・鈴木誠也の獲得秘話
「荒川シニア出身ですが、中学時代はやんちゃで負けん気が強く、悔しくて練習する、そういうタイプでした。その強い気持ちの部分もプロ向きだと考えました。テレビ番組で紹介されてますが、お父さんが、小学校時代から家でトスバッティングを投げるなど、野球漬けの生活環境で育っています」 尾形スカウトが見初めた、その強い気持ちが、4年目の覚醒の背景にある。 東出打撃コーチは、こう証言する。 「右手でバットを押し込む力が強い。だから右方向への打球も伸びるし、彼の長打力を生み出す要因になっている。それと練習量の多さです。誰よりもバットを振るし、チームでは新井さん以上。しかも、その練習に対する意識が高い。まじめだし、野球への取り組む、考え方が違う選手だ。将来、トリプルスリーの可能性を持っている」 3年目の昨年は開幕前に緒方監督が「1番・鈴木」を公言。大きく期待されたが、結果を残せず2試合で外されて、レギュラーを奪うことができなかった。それでも97試合に出場して、打率.275、本塁打5、打点25の数字を残して、4年目のシーズンに賭けたが、また故障で開幕1軍から外れた。ひとつの壁を越えそうで、超えられなかったが、ついにブレイク。支えたのは、ひたむきな努力である。 若手の合宿所、大野寮では、夜中に照明もつけずに暗闇の中でスイングを続けていた。 「集中力が増すから」が理由らしいが、真っ暗の室内練習場から、何やら音だけが響くため、幽霊騒ぎになったこともあるという。鈴木らしい伝説。「何で打てているからわからないけれど、まだ勝負はここから。調子を崩さないように頑張りたい」。広島の背番号「51」に油断はない。 (文責・駒沢悟/スポーツライター)