「毎分475個」も売れるQBBのベビーチーズ。新商品を作ってもスーパーでの棚の面積が減らないのは、「営業マンによる地道な売り場づくり」の賜物だった!
「営業以外の部門の社員も、お金の使い方や生産性向上、経費の有効活用といった意識を持つようになりました。自部門だけでなく、会社全体の経営を意識できる人が増えたと感じています」 アメーバ経営導入後の効果を、六甲バターのマーケティング本部長・黒田浄治さんはこう語る。 この仕組みにより、社員全員が事業状況や数値を共有。各部署で採算を意識しつつ、とことんおいしさを追求できる土台が整ったのだ。 ただし、アメーバ経営には1つデメリットもある。部門間での売り買いが発生することから、「自部門だけが儲かったらいい」という発想も生まれやすいのだ。
■消費者起点の経営哲学 そんなデメリットを防ぐために、アメーバ経営のもうひとつの柱として、フィロソフィーがある。フィロソフィーとはすなわち経営哲学。会社の価値観や、人として正しい行いが記されている。このフィロソフィーとして、六甲バターには69個もの言葉があるそうだ。 なかでも大切にされているのが、「消費者起点の経営」というフィロソフィー。すなわち、マーケットインの経営姿勢だ。そこには、「お客様の喜ぶ笑顔を想像しながら、喜んでいただける価値を創造し続ける」と記されている。
これらのフィロソフィーは手帳として社員に配布されており、価値観を共有するために、部署ごとに朝礼で読んだり発表したり、部の目標に取り入れたり、会議で成果や反省の言葉を述べる際に引用されたりしている。 「手帳を見るだけではなく、使うことで、日々の行動につながっていると感じています。他の社員から言葉で聞くと、自分に置き換えたらこうだな、ああだな、とより深く理解できるんです」(黒田さん) 六甲バターはアメーバ経営導入後、大幅なコストダウンに成功したそうだ。そして昨今、原料価格の高騰や円安、為替の変動など外的要因で苦しい状況でも、すぐには赤字にならない強さを得た。「たとえ赤字になっても、盛り返せる企業体質を実感している」と黒田さんは言う。
■厳しい円安のなか、業績は回復しつつある 実際、六甲バターは2022年の4月、9月、2023年の4月と3回の値上げを余儀なくされ、買い控えの影響を受けて、業績は2021年の粗利228億円から2022年には64億円に下がった。けれど、2023年には67億円に盛り返している。 この粗利の回復を牽引している要因の1つが、独自性の高い「チーズデザート」の存在だ。後編では、一人の女性の情熱が、チーズ業界に革新をもたらす商品を生み出した物語を紹介する。
笹間 聖子 :フリーライター・編集者