「毎分475個」も売れるQBBのベビーチーズ。新商品を作ってもスーパーでの棚の面積が減らないのは、「営業マンによる地道な売り場づくり」の賜物だった!
そこで同社の営業部員は、「手頃で買いやすい商品ですから、お客様はワンハンドでとれます。試しに下段で売ってくれたら、かなり売れるはずです」とバイヤーを口説いて売り場を仮確保した。そして、実際に売れて手に入れたのだ。 同じ理由から、100円均一コーナーに置かせてもらったこともあるという。 ■営業部員たちへの信頼が、カニバリへの不安を消した QBBのチーズは多種多彩なのが魅力だが、それを売る側のスーパーとしては、棚のスペースが決まっている以上、「なにかを売るには、なにかを排除する」必要が生まれる。
そうなると、「六甲バターさんは、このスペースでいいか」と考え、既存商品のスペースが少なくなることもあり得る。同じ会社の中で、商品同士が売り場を食い合う可能性もあるのだ。いわゆるカニバリゼーションという状態だ。 しかし、六甲バターの場合は、こうして営業部員が地道に売り場を開拓したことで、製品開発部の中に「新しい商品もきっと、配置する場所を獲得してくれる」という気持ちが生まれた。だから、「自社の他の製品の売り場を奪ってしまうのでは」などと心配することなく、新製品の開発をのびのび続けてこられたのだ。
「開発先導型」の社風と、部署の垣根を越えて議論を交わせる関係性から生まれる六甲バターの強さ。実は同社にはもう1つ、根本ともいえる強さの理由がある。「アメーバ経営」だ。 アメーバ経営とは、京セラの創業者で、経営破綻したJALを2年8カ月で再上場に導いたことでも知られる故・稲盛和夫氏が編み出した経営手法である。会社組織をアメーバ細胞に見立てて小さな集団に細分化し、集団ごとに独立採算で運営するのが特徴だ。
社内で売り買いが発生し、その金額をオープンにすることで、「自部門の業務がどれだけ会社の収益、成績につながるか」を明確化し、自部門のみならず、会社の経営内容までが社員に見える化していく。このため、一人ひとりが経営に責任を持ち、経営者の視点、意識を持って働けるようになっていくという仕組みである。 六甲バターがアメーバ経営を導入したのは2010年のこと。きっかけは、前会長の塚本哲夫氏が、稲盛氏の経営塾「盛和塾」の神戸校の創設メンバーに入っていたことだった。塚本氏は稲盛氏の言葉を間近で聞き、その価値観と経営手法に深く共感したという。