世界のキタノ『たけし日本語学校』でベナン人青年が習った「言語以上」のこと
ボーダレス・ジャパン 田口一成との出会い
さて、ミガンは、2022年、JICA(国際協力機構。日本の外務省が所管する政府開発援助(ODA)の実施機関の一つ)の紹介で神戸情報大学院大学に留学し、情報工学を専攻した。そして日本で人生を変える幸運な出来事と遭遇した。社会起業家として知られるボーダレス・ジャパンの社長、田口一成と出会ったのだ(写真)。ミガンは田口の『9割の社会問題はビジネスで解決できる』(2021年、PHP研究所刊)を読んでおり、世界でソーシャルビジネスを展開する田口は憧れの人である。その田口と出会ったことで、自分も社会起業家になると決意する。 「田口さんの本を参考にしながら、ビジネスプランを考えました。ベナンの主食はトウモロコシでトウモロコシ農家が多いのですが、農業人口は1991年から2021年の間に50%も減っています。昔は子供が親の農作業を手伝っていたのですが、子供が都会の学校に行ったり、都会で就職したりするようになったからです。ベナンの農家は機械化していない小規模農家が多いため、労働力不足から離農が増えてしまいました。これを自動収穫ロボットで克服できないかと思い、トウモロコシの熟期を画像認識で判断できる仕組みをつくりました」 ちなみに、日本はこの分野の課題先進国である。自動収穫ロボットは、Forbes JAPANの「ライジングスター アワード」でグランプリを受賞した宮崎県新富町のアグリストが先行している。ミガンはこのビジネスプランで、2023年、神戸市が主催するアフリカビジネスコンテストで学生賞を受賞。また、2024年9月に大学院を修了し、探究実践賞を受賞した。 ミガンにとって、日本語の学習はどんな変化をもたらしたのか? そう聞くと、彼は「人のために行動するという考えを学びました」と言う。 「ベナンはフランスの植民地だったせいか、超個人主義です。日本にいると、相手に理解させるより、こちらが相手を理解して、それに対して順応する。多様性とは柔軟性のことなんだと教えられた気がします」 筆者がForbes JAPAN2023年4月号「『世界の北野』からすべての経営者に贈る アフリカ、足立区、そして仲間の巻き込み方」で北野武監督に対して行ったアフリカに関するインタビューで、彼は「仕組みとルールをつくって、ルールがわかる人間を育てないと経済構造は変わらない」と言った。 「自走」できる仕組みを構築しなければ、支配構造から脱することはできない。外国語の習得は逆境を超える道具でもあり、日本語の習得は、日本を理解することにもなる。日本で働きたい高度専門人材を日本が本気で求めるのであれば、日本語を学ぶ機会をつくることが「人材不足・日本」の自走への早道かもしれない。 Forbes JAPAN2023年4月号「『世界の北野』からすべての経営者に贈る アフリカ、足立区、そして仲間の巻き込み方」
Forbes JAPAN 編集部