カギとなるのは安心感。ストレスを減らす「セルフケア神経」って知ってる?
カギとなるのは安心感
でも、迷走神経が和らげてくれるのはストレスだけじゃない。チャテルジー医師は、相互に関連しているケースが多い不安障害と過敏性腸症候群の患者に“3-4-5の呼吸法”を処方している。 「不安になると呼吸が浅くなる一方で、深い呼吸とリラクゼーションは迷走神経を刺激します」と説明するチャテルジー医師によると、このようなテクニックは従来の療法に効果が見られないときやアクセスできないときの代替療法になる。 ただ、迷走神経が活性化したときの効果は、何からの問題を抱えていないと感じられない。不妊専門家のエマ・キャノンは、迷走神経のケアによって妊娠の確率が高くなる可能性もあると考えており、自身の体・心・腸のケアプログラムに迷走神経を刺激するための耳鍼を取り入れている。 「私のクライアントの多くはストレスを溜め込んでいます」とキャノン。「電気鍼は腸を弛緩させ、体が“摂食・繁殖(休息・消化)モード”に入るのを助けてくれます。そして、その繁殖には安心感が必要です」 ポリヴェーガル理論によると、迷走神経を整えるにはこの安心感が欠かせない。 米ノースカロライナ大学の精神医学教授スティーブン・ポージェス博士が提唱したポリヴェーガル理論は、安心感とポジティブな社会的つながりがあるときは、迷走神経が「安心です」というメッセージを体内の臓器に伝え、心拍数を低下させてストレス反応を食い止めるというもの。 この安心感は笑顔、フレンドリーな表情、マザリーズ(赤ちゃんやペットに対する話かけ方)などによって伝えられる。「人間は生まれつき、母親の子守歌に似た心地良い響きの声に敏感です」とポージェス博士。 「心地良い響きの声は、神経系に安心感を伝えます。チャントを唱えたり歌をうたったりすると、自分の声で心臓につながる迷走神経が活発になり、心が落ち着きますよ」。迷走神経が活発になるのは息を吐いているときなので、チャンティングでも歌でも息をしっかり吐くことを意識しよう。 迷走神経を活性化したいときは、子どもの頃に周りの大人がしてくれたことも参考にするといい。「ペットをなでたり、湯たんぽを抱き締めたり、温かいブランケットに包まったりすると何となく安心しますよね」とバク=マイアー博士。「そのようなことなら何でも、ホメオスタシス(恒常性)やバランスを取り戻すきっかけになります」 でも、タコの手足のごとく体の奥深くまで張り巡らされている迷走神経には謎が多い。迷走神経は脳腸相関(腸内細菌によって作られた短鎖脂肪酸が迷走神経を通じて脳に信号を送る仕組み)の一部。脳腸相関は食欲に関係しているだけでなく、排便で幸せな気分になれる理由とさえ言われている。 「迷走神経に関する話は、今後ますます聞かれるようになるはずです」とチャテルジー医師。「特に、生活習慣関連の慢性的な問題に薬を使うのは限界がありますからね。迷走神経を支えるためのツールや方法を増やすことが重要になるでしょう」 クメリクによると、迷走神経に関する研究が進むことの利点は、ずっと「気のせい」で片付けられていた一部の疾患(片頭痛、過敏性腸症候群、不安障害など)が臨床的に説明できるようになること。 まだ謎の多い領域ではあるけれど、迷走神経で起こることは迷走神経の中だけにとどまらず、その影響が全身に波及することだけは確か。