「なぜ流行を知っている人はイケているのか?」 壮大な謎に挑んだ"鈍器本"の著者にせまる
――文化は変化し続けるんですね。 マークス そうです。そして変化は必ずしも独立して起こるわけではなく、ほかのカルチャーの影響を受けたり、対抗したりした結果であることも多いんです。 例えば現代的な暴走族って、特攻服に日の丸や旭日旗がトレードマークですよね。別に政治信条が右翼的とは限らないのに、どうしてあんな格好なのか知ってますか? ――言われてみると不思議ですね......。なんでだろう? マークス それは、当時の若者の間ではやっていた左翼的なヒッピー文化に対抗して、右翼的なモチーフを選んだからです。 ヒッピー自体が既存のカルチャーへのカウンターカルチャーだったわけですが、暴走族はさらにそのカウンターなんです。私はそれを「カウンター・カウンターカルチャー」と呼んでいますが、カルチャーやステイタスは、こうやって互いに関係しながら変化していくんです。 ――本の中では、お金ではなく文化でステイタスを示す「文化資本」の価値が下がっていると書いていますね。 マークス 文化的なステイタスは主に情報ですが、ネットの普及で誰もが情報を手に入れられるようになったから、価値が下がったんです。昔だったら一部の人しか知らない音楽や文学の教養やコアな知識も、今はネットで検索したら簡単に手に入ってしまいますよね。 ――でも、紀ノ国屋の紙袋みたいな文化的なステイタスは今もあるのでは? マークス それもネットの影響で価値が下がっています。以前は紀ノ国屋に行ける都市部の人しか持てなかったからステイタスだったのですが、今はメルカリがあるから、地方の人でも簡単に買えますよね。すると、紀ノ国屋の紙袋の価値は下がっていきます。 その代わりに現代人のステイタスを示す手段として存在感を増しているのが、お金です。難しい本やアートの知識じゃなくて、「ニセコで泊まるならやっぱりハイアットだよね」とか「夕べ行った会員制のレストランがさあ......」みたいに、お金持ちじゃないとシグナルを示せない時代になってきているんですよ。