モネが最晩年まで連作の主題とした『睡蓮』の魅力【モネの作品を味わうための「スイレン」ガイド】
モネの時代、ヨーロッパにあった品種
◆‘ダーウィン’ マルリアックが1909年に作出。ボリュームのある花を咲かせ、淡いピンクの花弁は、中心にいくほど色合いが濃くなる。 ◆‘アーカンシェル’ マルリアックが1901年頃に作出。スイレンとして唯一斑(ふ)入りの葉を持つ。温帯種としては珍しく、強めの甘い香りを放つ。 ◆ヒツジグサ 日本産の野生種。直径2~4㎝の小さな花をつける。「未(ひつじ)の刻」(14時頃)に花が開くことからこの名がついた。 パリ万博とモネの庭作りの年代は重なる。マルリアックの新品種から、モネは大きな刺激を受けた。その後モネは、マルリアックからスイレンを幾度も購入し「水の庭」で育成している。マルリアックと出会ってからモネは育成に没入し、憧れた熱帯性の青いスイレンを温室で育てるほどであった。マルリアックの類稀な育種家の才能とモネの芸術的感性が共鳴し、その結果、印象派の一時代を彩ったといえる。 「もし、マルリアックがモネのずっとあとに生まれていたら『睡蓮』の連作は生まれなかったかもしれません。歴史の偶然を感じます」 マルリアック以降、数多くの育種家によって観賞用のスイレンが作出され、現在、国際スイレン・水生園芸協会には2893もの栽培品種が登録されている。 ◆解説 城山 豊さん(咲くやこの花館館長・68歳) 大阪府生まれ。京都大学農学部卒、同大学院修了。草津市立水生植物公園などに勤務。兵庫県立大学大学院教授を経て現職。著書に『NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 スイレン』。
フランスでモネの家を訪ねる
1890年、モネはパリの北西約70㎞のジヴェルニーに自宅とアトリエを建て、終の棲処とした。移住後、「花の庭」「水の庭」を作り、『積みわら』や『睡蓮』の連作を描いた。モネの暮らした家は当時のまま残され、アトリエ、庭を含め「クロード・モネの家と庭」により管理され一般公開されている(11月~3月は冬期閉館。※開館期間などは変動することがある。クロード・モネの家と庭公式HP参照)。鉄道を使えばパリから日帰りで行ける。パリ中心部のサン=ラザール駅から最寄りのヴェルノン・ジヴェルニー駅へは約1時間、開館期間は駅からモネの家へシャトルバスが運行。公式サイトで日時予約制のデジタル・チケットの購入がおすすめ。高知県にある『北川村「モネの庭」マルモッタン』の入園券の半券は、ジヴェルニーの入場券として使える。 ※この記事は『サライ』本誌2025年1月号より転載しました。 写真/城山 豊、福田 誠、国立国会図書館 スイレン品種解説監修/宮本浩一(宮川花園)
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