「定年制」はエイジズムにあたるのか? 少子高齢化が加速する社会の、シニア雇用を考える
定年制のメリットとデメリット
このように定年制の捉え方には国の情勢や社会的背景が大きく関係している。それでは、一般的に定年制にはどのようなメリットとデメリットがあるのだろうか。それぞれ見てみよう。 【定年制は業務の属人化を防ぎ、退職のプレッシャーも軽減?】 定年制導入のメリットは、まず一定程度の身体能力が必要な職業や、危険が伴う業務におけるリスク軽減につながる点だ。年齢を重ねるとどうしても体力や判断力は低下していく。小さなミスであっても命の危険に関わる職業も少なくない。 雇用主が労働者の健康を守ることは人道的意義や法律上の義務だけでなく、生産性という側面から企業にとってもメリットであることは間違いない。さらに、定年退職制度による人員の入れ替わりで、若い世代の成長のきっかけとなり、組織の高齢化によって起こる業務の属人化も防ぐことができる。 また、退職のタイミングを自ら決定できない従業員にとって、定年の年齢が設定されていることで、周りからのプレッシャーや批判を受けずに退職することができ、ストレス軽減にもなるだろう。第二の人生を考える上での区切りの目安にもなる。 【定年制がエイジズムとエイブリズムにつながるという指摘も】 反対に定年制のデメリットは、働き続けたい人の就業意欲や自由意思を無視した年齢差別(エイジズム)や、能力のある人が優れているといった健常者優先主義による社会的偏見(エイブリズム)にもつながることだろう。 これは雇用対策法に記された「年齢にかかわりなく均等な機会を与える」趣旨と矛盾しているようにも見える。無意識に植え付けられた価値観や差別によって、有能な人材への正常な評価が妨げられ、高齢者のモチベーションは下がり、チームや会社全体のパフォーマンスが低下することも否めない。長年勤めたことで得た知識や経験の蓄積が軽視される可能性があることも大きな問題だ。 労働人口の減少が進むこの時代で世代交代がうまくいかなかった場合、熟練した彼らからの知識継承が途切れ、メンターシップが構築できなくなってしまう。これは企業全体の不利益につながる可能性もある。 【AIの進化は労働人口不足の解決となるか】 さらに、高齢者の雇用のあり方を考える上で、人工知能(AI)やロボット技術の進化が雇用に与える影響も忘れてはならない。 現在、危険を伴う作業や、判断力や体力に依存しない仕事は、機械化・自動化することで少ない人員で業務効率化ができると期待されている。少子高齢化の時代に、労働者が一気に定年退職する時に起こる労働人口不足の解消の後押しにもなるだろう。 AI技術の進歩によって私たちの暮らしはより便利になっている。しかしながら、豊かな人生経験に基づく判断力や生きた知識、相手の感情に寄り添った対応などにおいては、AIが人間の代わりになることは難しいだろう。テクノロジーの持つ正確性と高齢者の経験、若い世代の柔軟な思考。それぞれの長所を活かし合える環境の実現を考えなければいけないはずだ。