50歳カズは、次節出場で最年長プレーの世界記録更新?!
左胸のポケットに一輪の真っ赤な薔薇をさした、上下ともにピンク色の派手なスーツ。第2ボタンまで開いた黒いシャツと濃い紫色のベスト、重厚な輝きを放つ革靴が対照的なコントラストを描いている。 強敵・松本山雅FCから1‐0の白星をもぎ取った余韻が消え去り、ファンやサポーターも引き揚げたニッパツ三ツ沢競技場のピッチ。先発して後半20分までプレーした横浜FCのFW三浦知良は、ユニフォームをダンディズム感の漂う特注のコスチュームに変えて現れた。 「ピッチに入ってきたときに『誕生日おめでとうございます』という声がたくさん聞こえたし、ボードや横断幕、フラッグも出ていた。試合前だったけど、ちょっと泣きそうになっちゃいました」 今シーズンのJ2が開幕した26日は、カズの50回目の誕生日でもあった。ピッチに立つたびにJリーグ最年長出場記録を更新するようになって久しいが、史上初の「50歳Jリーガー」の誕生となれば、注目度が一気にはね上がる。 取材に訪れたメディアは74社、合計206人に達した。取材エリアが手狭という理由で、前例のないピッチ上で夕焼けをバックにした記者会見が設定された。 キックオフと同時に偉業が達成された午後2時4分。メインスタンドには、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎・日本サッカー協会最高顧問も観戦に訪れていた。 ヴェルディ川崎と横浜マリノスの開幕戦のキックオフを前に、旧国立競技場のピッチでJリーグの開会を宣言したのが1993年5月15日。前者のキャプテンを務めていたスーパースターが25年目を迎えたいまも現役で、象徴でもある「11番」を背負って先発として目の前でプレーしている。 「感慨ひとしおどころじゃないよね。(カズの記録を抜く選手は)どう考えても、ちょっと無理だな。これだけストイックに自分の体を維持して、試合に出られるのは難しい。アマチュアじゃないわけだからね」 カズとは「ある約束」を交わしていた。2013年5月17日。グランドプリンスホテル新高輪で開催されたJリーグ20周年記念パーティー。ジーコやドラガン・ストイコビッチら、歴史を彩ったスター選手たちが来日したなかで、現役選手として当時46歳のカズも招待されていた。 しかも壇上に立ち、川淵氏の隣に立つ機会があった。そのときに川淵氏はこんな言葉をカズの耳元でささやいている。 「スタンリー・マシューズが50歳まで現役でプレーしたのだから、50歳すぎまで頑張れ」 イングランド・サッカー史上に残る名ウイングで、バロンドールの初代受賞者でもあるマシューズは、ストーク・シティで50歳までプレーしていた。件の記念パーティーが開催された2013年当時では、現役最高齢の世界記録でもあった。 「カズは『頑張ります』と言っていたけど、さすがに50歳までは無理かなと思って僕もそのときは言ったんだ。本当によく頑張ったよね。しかも、今日が誕生日という巡り合わせまでもっている。そう考えると、今日は点を取るんじゃないかと思っていたよ」 川淵氏が見つめるなか、見事に約束を守ったカズに最大にして唯一のチャンスが訪れたのは後半12分。ペナルティーエリアのやや外側、ゴールの正面からループ気味のシュートを狙ったが、ヒットし切れなかった力のないボールは相手GKにキャッチされてしまった。