林 咲希「あきらめずに戦えた。それが今の自分の誇り」
3ポイントを2回決め、今日の私は大丈夫と思った
さて、オリンピック最終予選、まずはスペイン。日本代表はFIBAランキング9位でスペインは同4位。格上だが、試合早々、林が3ポイントを2回決める。このとき「今日の私は大丈夫」と思ったという。 日本は勢いに乗り、危なげなく勝利。だが2戦目、同14位のハンガリーに地獄へ落とされる。同点に追いつかれた後半、リバウンド争いで優位に立ったハンガリーに負けてしまった。 「相手のホームだから声援がすごかった。それだからか、シュートを決めても、全然気持ちよくないんですよ。ディフェンスもズレができて。相手も3ポイントを決めてきた。簡単にシュートを打たせてしまった自分たちもよくなかったです」 同じ代表の馬瓜エブリンが、「生きた心地がしなかった」と言うこの状況をキャプテンはどう変えたか。 「ゲームが夜だったので、その日はリフレッシュ。で、次の日のミーティングで、“絶対に勝とう”という声とか、宮崎(早織)がエブリンに“お前が吠えろ(声を出して鼓舞しろ)”って言ったりみたいな感じで、雰囲気は決して悪くなかった。 それで、ハンガリー戦ではできなかったことをカナダ戦でやり遂げようというふうになった。勝てる流れは作れたんじゃないかなと思いました」 最終戦のカナダは同5位。負けたら他試合次第の状況で生死が決まる。試合は一瞬の予断も許さない。残り27.5秒で日本は3点差まで詰め寄られるが、辛くも勝利を収めた。 「不安はありました。でも、第3ピリオドまではミーティング通り。ただ、最終ピリオドの残り5分でも混戦が続いて。もう、ワンポゼッションが命取りになるプレイもあるなか、やることを明確に話し合えたのがよかった。 恩塚(亨・日本代表ヘッドコーチ)さんが考える、一人一人が持っているものを最大限に出すバスケットができていたと思います」 激しい戦いの末、やっとつかんだ勝利。しかし、それはパリ・オリンピックの出発点でしかない。そして、あと3か月で夢の舞台は始まるのだ。 「優勝を目指してがんばります」。 最後に林はこう力強く答えてくれた。
プロフィール
はやし・さき/1995年生まれ。173cm、62kg。精華女子高校ではインターハイでベスト16。国体で福岡県チームに選出されて準優勝。白鷗大学に進学し、4年時にインカレで優勝。得点王、MVPに輝く。2017年、JX-ENEOSサンフラワーズ(現・ENEOSサンフラワーズ)に加入。19年、日本代表初選出。21年、東京オリンピックで銀メダル。23年、富士通レッドウェーブに移籍。24年、パリ・オリンピック出場を決める。
取材・文/鈴木一朗(初出『Tarzan』No.877・2024年4月4日発売)