WALK on the WILDSIDE -全天候型放浪記- 宝島アイランドバックパッキング
どれ、風をもらおうか。ながめのよい風を。
君もいつか宝探しにいってみるといい。 鍾乳洞をあとにした僕らは、大間泊と呼ばれている広大な海岸に穿たれた天然の港へ遊びに行った。 そこには小さなボートが置いてあり、僕らはそのボートに潜り込んでおやつを食べた。 風が強く、いまにもキャップが吹き飛ばされそうだった。「このまま飛んでいったらホントにトビウオになっちゃうね」と僕がいうとフクちゃんが「あははは」と笑った。フクちゃんの垂らした鼻水が海に向かってピョーンと伸びていた。フーちゃんはそれを。見て「あははは」と笑った。 ぼくはすとんと笑い 木の間から 星をつねった どれ 風をもらおうか ながめのよい風を。 僕は海風に吹かれながらナーガの古い詩を思い出した。 ナーガこと長沢哲夫はトカラの諏訪之瀬島に住むビートニク詩人だ。‘60年代末にゲイリー・スナイダーやナナオサカキなどと島に移り住み、森を切り開いてヒッピーコミューンを築いた。そのコミューンは7年あまりで滅びてしまったが、ナーガは島に残りトビウオ漁師となった。僕はそんな放浪詩人のファンで2004年に諏訪瀬島を訪ね、ナーガの小屋に泊めてもらったことがあった。 その夜、ナーガは夕食にトビウオの干物を焼いてくれた。トビウオは大きく、旨かった。ほおばると磯の香りがし、奥歯で噛むとじんわりと太陽の甘みが広がった。ナーガの作る干物は県内でも有名だった。だがこの年老いた干物名人がじつはビートニク詩人だなんてことはだれも知らない。僕にはそれがとても痛快だった。 「この島のみっつ向こうに宝島という島があるんだよ」。 ナーガは柔軟な表情のまま僕に言った。 「君もいつか宝探しにいってみるといい」。 あれから20年が経ち、僕はこうして宝島にやってきた。トビウオのキャップを被ってきたのはそのせいだ。 僕はそのキャップをフーちゃんにプレゼントした。 ちょうど僕たちが知り合った日に彼が9歳の誕生日を迎えたからだ。大きな羽を広げて自由に空を飛びまわるトビウオのマークは、くフーちゃんにとてもよ似合っていた。 宝物は見つからなかったけど、僕には島に友だちができた。 南の海に浮かぶサンゴ礁でできた島。 空から見るとハートの形をしている島。 だれも知らない、行ったこともない島。 この日からそれは、僕の宝島になった。 「フィールドライフ」は、2003年創刊のアウトドアフリーマガジンです。 アウトドアアクティビティを始めたい初心者層からアウトドアを知り尽くしたコアユーザーまで、山、川、海など日本のあらゆるフィールドでの遊び方を紹介します。 全国のアウトドアショップでお読みいただけます。(一部設置していない店舗もございます) または、Amazon Kindle(電子書籍)でもお読みいただけます。 電子書籍(Amazon Kindle)はこちら。 編集◉フィールドライフ編集部/文◉ホーボージュン Text by HOBOJUN/写真◉山田真人 Photo by Makoto Yamada
フィールドライフ編集部