【建設現場のリアル】高齢化が進む業界で「働き方改革」から生じる深刻な副作用 残業を苦にしない世代と下の世代にギャップ、「教える時間もなく若手が育たない」懸念も
作業は減らず納期は遅れていく
都内の空調設備系の企業に勤めるDさん(20代・男性)は、「椅子に座った瞬間に意識が朦朧として、視界が揺れたこともある」という過酷な実態を明かす。 「働き方改革が導入される前は、朝6時半に家を出て、帰宅は0時頃が日常でした。作業員が足りないとからと、夜中の3時に現場に向かったこともあります。当時は、晩御飯にカップ麺を食べようとお湯を注いでも、3分経つ前に寝ていました」(Dさん、以下「」内同) Dさんの企業では、2024年4月以降、明らかに働き方の管理が厳しくなったという。Dさんは、「休憩や休暇を取りたいと表面上でも主張できるようになったのはよい変化」だとしたうえで、“弊害”もあると話す。 「大手企業なので、建前として労働環境の管理をしないといけないという事情があるようです。40代の上司も『残業をされるとオレが管理不行き届きとして怒られるから、帰るように』と言うのですが、別に作業量が減るわけではありません。管理がキツくなり、ただただ納期が遅れていくだけです。 人を育てている余裕がないので、現場で覚えさせると言って現場に放り込み、できないと無能扱い。こんな環境では、若手が離れるのは当然です」(前同)
勤務時間を縛るだけでは人材が育たない
建設現場で管理職クラスのRさん(50代男性)は、「今の人手不足が、将来的な技術力の低下を招きかねない」と危惧する。 「業界では60代でも現役バリバリな人は珍しくなく、それはそれで素直に凄いなと思います。その世代の人たちは、なんなら率先して残業するといってもいいレベル。『若いやつは帰りたいんだろうからいいよ、自分たちがやるよ』なんて言う人もいるぐらいです。 ただ人手不足もあって、新人をじっくり教育している余裕がないというのは、今後に影響があるかもしれないとは思うんですよね。もちろん何年も下積みをすればいいというものではないと思いますが、若手も若手で早く現場に出たがるうえに残業も嫌がる。 本当の問題は、きちんと能力を身に着けないままに、“中途半端”な実力の人たちが今後管理職になってしまうこと。ゆとりある働き方は大事かもしれませんが、単純に勤務時間を縛るだけでは人材を養えず、本質的・将来的な問題の解決にはならないと思っています」(Rさん) もちろん国も人材育成のための予算を確保するなど課題認識はしているところだが、現場にまで浸透しているとはいい難いのが現状というところか。余裕のない働き方は大きな事故につながりかねないばかりか、業界の未来にも影を落としかねない。(了)