東京ディズニーの元清掃スタッフ、すさまじい「おもてなし力」が招いた残念すぎる結末
東京ディズニーリゾートに57歳で入社し、65歳で退職するまで、私がすごした8年間でみた“夢の国”の「ありのまま」の姿をお伝えしよう。働くキャストも人間だから、手を抜くこともある。本書は、模範回答的なディズニーランド像に対する、「現場からの実態報告」でもある。 ※本稿は笠原一郎『ディズニーキャストざわざわ日記』(三五館シンシャ、2022年2月1日発行)の一部を抜粋・編集したものです 【この記事の画像を見る】 ● 某月某日 苦手な人 すさまじい「おもてなし力」 相性が悪く、苦手な人というのはどこにでもいる。“夢の国”にだって、もちろん存在する。私にとって、同僚の小泉さん(仮名)がそんな人だった。 小泉さんは50代で私より5歳年下、頭の両サイドを短く刈り上げて、ツンツンに立てた髪形がお気に入りで、毎日しっかりとセットしていた。彼はバックステージを肩で風を切って歩き、ストレージでは周囲に聞こえるように大声で昔“ヤンチャしていたころ”の武勇伝を話していた。 ディズニーキャストのおもてなしというのはそれなりのレベルにあると思うが、小泉さんのおもてなし力は別の意味ですさまじいものだった。 一緒にオンステージで掃除をしていたときのことだ。親子連れのゲストが彼に「この近くで洋食を食べられるレストランはありますか?」と尋ねた。 すると彼は「あっちのほう」と顎をしゃくりあげるようにして方向を示した。ゲストも驚いただろうが、その対応をそばで見ていた私も驚いた。こんなキャストがいるのか、というのが率直な感想だった。 呆然として小泉さんのことを見ていると、それに気づいたのか私に目を合わせ、「つまんないこと聞いてくるよねえ」と同意を求めるようにつぶやいた。 そんな小泉さんは、早出、残業、代勤、休日出勤を積極的に行なっていた。
● バースデーシールを大量に持っていて 若い女性ゲストだけを選んで渡していた 小泉さんは積極的に出勤するものの、積極的に仕事をするわけではない。 トラッシュカンからゴミを回収する「ダンプ担当」の際、できる限りオンステージをブラブラして、回収数を抑える。これが彼の得意技だった。 何時間で何個などと作業量が決まっているわけではないので特別注意を受けることはない。ただ、回収に回る回数が減ると、必然的にトラッシュカンのゴミの量が増えるので、引き継いだキャストの負担は大きくなる。小泉さんの担当時間が終わると、あとを引き継いだキャストがたいへんだった。 あるとき、そうした小泉さんの仕事ぶりを見かねた20代の若手キャスト・浜田君(仮名)がきちんと回収してくれるように頼んだという。すると小泉さんは「そういうことは私みたいな老人じゃなくて、若い人たちでフォローしてくれよ」とのたまったという。 正義感の強い浜田君は、小泉さんの言い草に憤慨していた。そして、それ以来、浜田君は小泉さんを毛嫌いし、徹底的に避けるようになった。それでも小泉さんは痛痒を感じていないようだった。 小泉さんには、月間の勤務時間数のことで揉めたスーパーバイザー(SV)を恫喝したという噂もあった。キャストのあいだではこうした噂はすぐに広まる。真偽のほどはわからなかったが、彼ならさもありなん、と納得したものだ。 ゲストにも同僚にもSVにも態度が悪く横柄な小泉さんだが、若い女性のゲスト対応だけは積極的かつ丁寧だった。プリンセスの絵を得意とするキャストが作ったプリンセスの絵付きのバースデーシールを大量に持っていて、若い女性ゲストだけを選んで渡していた。 男性ゲストはもちろん、幼い子どもが寄ってきてもきっちり無視する。そのセンサーは抜群だった。